主として極運動によって起こる天文緯度の変化。天文緯度はある地点の重力の方向と地球の自転軸の方向とのなす角の余角と定義される。極運動が起こると地球の自転軸は地球の本体に対して移動するので,自転軸の方向と重力方向のなす角が変化する。したがってその角の余角である天文緯度が変化することになり,天文緯度の変化を観測して逆に極運動を求めることができる。そのため1899年から岩手県水沢市ほか世界5ヵ所に緯度観測所が設立されて国際緯度観測事業が始まった。極運動によって天文経度も変化するが,観測所の創設時には時計の精度が悪かったので,天文経度の変化から極運動を求めることはできなかった。現在は天文経緯度の変化を総合して極運動が決定されている。ある地点の数年間の天文緯度を平均したものを平均緯度Φとし,観測した天文緯度をφとすると,φ-Φ=⊿φが天文緯度変化である。地点の経度をΛとすると,緯度変化はある時刻の極運動の位置と⊿φ=xcosΛ+ysinΛの関係がある。x,yは極運動座標と呼ばれ,極運動の描く軌道上の1点を直交座標で表したものである。極運動は北極の平均位置を原点とし,経度0°方向をx軸,西経90°方向をy軸にとる座標系で表すことになっている。多くの観測所の緯度変化を集め,最小二乗法によって極運動座標を決定している。観測天文経度をλとすると,⊿λ=λ-Λが経度変化で,これは⊿λ=(-xsinΛ+ycosΛ)tanΦの関係があり,経度変化からも極運動座標が求められる。天文経緯度の変化は,極運動の成分と同じく430日周期のチャンドラー運動,1年周期の年周運動および永年変化を含んでいる。経度変化はさらに地球自転速度の変動を含む。極運動によらない非極運動成分のうち,観測所すべてに共通な変化としてZ項(木村項)がある。また観測所に固有な局地的変化が存在する。
1899年から始まった国際緯度観測の資料を使って,中央局長アルブレヒトT.H.Albrechtは極運動を求めた。この計算極運動から逆に各観測所の緯度変化を計算し観測緯度変化と比較した。観測緯度変化と計算緯度変化の差(残差)は,観測が正しければ偶然誤差の程度にしかならないはずであるが,水沢の残差だけが他の観測所に比べて異常に大きかったので,アルブレヒトは水沢の観測精度を他の観測所の半分に評価した。水沢緯度観測所の初代所長であった木村栄は,緯度変化には,極運動によって起こる変化のほかに1年周期の各観測所に共通な変化の存在することを発見した。これは経度に無関係な変化なので,極運動計算式の第3項としてZ項という定数項を加えることを提案した(1902)。このZ項を入れて極運動を計算すると,水沢の残差のみならず他の観測所の残差も小さくなり,また水沢の精度はもっともよくなった。Z項は1年周期で冬至に山,夏至に谷になり,振幅は約0.″03であった。Z項の原因に対して,気象学・地球物理学的現象との相関が調べられたが,結局一つも成功しなかった。
地球の運動の一つに章動がある。章動には種々の周期をもつ成分があり,その振幅は地球を剛体と仮定した理論によって計算されている。現実の地球は変形しかつ流体核をもっているので,このような地球の章動の振幅は剛体地球の章動振幅とは違ってくる。現実の地球上で観測している天文緯度変化に対して剛体地球の章動振幅を補正していたから,現実の章動振幅との差が天文緯度変化の中に入る。その差は各観測所に共通な変化としてZ項となる性質がある。年周Z項の主因は,半年周期章動項係数の誤りであることが,非剛体地球模型による章動理論によって証明された。木村の年周Z項は天文定数の一つである章動の係数を改正する観測的事実として重要な役割を果たした。1984年の暦からは,新しい章動項係数が使われることになった。また,経度変化には緯度変化のZ項に対応するものとしてτ・tanΦが加えられている。
執筆者:若生 康二郎
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地球の極運動によって生じる、周期約430日の天文緯度の変化をいう。緯度変化は1888~1891年、K・F・キュストナーによって発見され、S・C・チャンドラーによって極運動との関係が正しく解釈された。緯度観測によって極運動が求められるが、極運動は地球内部の構造や物質の状態と密接に関連しており、地球の科学にとってきわめて重要な位置を占めている。眼視(がんし)天頂儀、浮遊(ふゆう)天頂儀は、タルコット法による天文緯度観測の器械である。また、時計の精度向上によって、天文経度も観測できる写真天頂筒やアストロラーベなどができた。現在では、電波望遠鏡、レーザー測距法、人工衛星のドップラー測距などによっても緯度、経度の変化が観測できるようになった。日本では、岩手県奥州(おうしゅう)市にある国立天文台水沢VLBI観測所(旧、緯度観測所)が、1899年(明治32)から観測を続けている。1899~1962年(昭和37)には緯度変化の国際共同観測(国際緯度観測事業)が、1962年以降は国際極運動事業、1988年からは国際地球回転観測事業と発展している。なお木村栄(ひさし)は、緯度変化のなかに、極運動に関係しない現象であるz項を発見した。
[若生康二郎]
『若生康二郎編『地球回転』(1979・恒星社厚生閣)』
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… 測地緯度,地心緯度,地理緯度などは,一度決めてしまうと,地殻変動や採用楕円体が変わらないかぎり変化はしない。しかし天文緯度は地球の極運動によって起こる天文経緯度変化によって,つねに変化している。こまのように心棒(回転軸)とこまの本体が固定しているときは,回転軸が傾いてもこまの本体と回転軸の関係は変化しない。…
※「緯度変化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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