内部経済・外部経済(読み)ないぶけいざいがいぶけいざい(その他表記)internal economies, external economies

日本大百科全書(ニッポニカ) 「内部経済・外部経済」の意味・わかりやすい解説

内部経済・外部経済
ないぶけいざいがいぶけいざい
internal economies, external economies

この用語は、イギリスの経済学者A・マーシャルによって用いられ始めたものであるが、その後別の意味にも使われるようになっているので、ここではマーシャル的内部経済・外部経済と、外部効果の意味での外部経済との二つに分けて説明する。

[内島敏之]

マーシャル的内部経済・外部経済

産業の規模が大きくなるにつれ、一般に、ある大きさの利得が生じてくる。マーシャルは、このような産業組織の問題を内部経済・外部経済の観点から論じ、収穫逓増(ていぞう)や収穫逓減法則の成立する理由を解明しようとした。彼は、個々の企業の資金調達能力、経営能力、組織の効率性など、その企業内部の固有の特性から生ずる利得のことを内部経済とよび、これに対して、個々の企業の外部の状況、つまり産業全体あるいは国民経済全体の発達などによってもたらされる利得のことを外部経済とよんだ。

 マーシャルの提起した問題は、外部経済のより詳しい研究や収穫逓増現象に関連する不完全競争理論の展開をもたらした。A・C・ピグーやシトフスキーTibor de Scitovsky(1910―2002)の外部経済に関する議論や、スラッファPiero Sraffa(1898―1983)、J・V・ロビンソン、E・H・チェンバリンの理論は、こうした背景を受けて生まれた。

[内島敏之]

外部効果と外部経済・外部不経済

経済学では通常、個別家計や個別企業が意思決定をするときには、自分以外の他人の意思決定は自分の行動に影響を及ぼすことはない、と仮定する。しかし、家計や企業の行動は相互に依存的であり、他人からの影響は無視できないこともある。ある経済主体が他の経済主体の行動に影響を受けて自分の意思決定をするとき外部効果externalityが存在するといい、ある経済主体が他の経済主体から有利な影響を受けるとき外部経済が、不利な影響を受けるとき外部不経済が、それぞれ存在するという。このような外部効果には大別して、金銭的なものpecuniaryと技術的なものtechnologicalとの二つがある。

(1)金銭的外部経済・不経済 市場(あるいは価格)機構を通じて、ある企業・家計が他の企業・家計から好ましい影響あるいは好ましくない影響を受けることをいう。たとえば、ある地域に製鉄所が新しく建設されたとしよう。鉄鋼の価格はこれまでより安くなり、その地域の製造工業にその分だけ費用の節約をもたらし、生産活動も活発になる。生産の拡大はまた労働者の雇用機会を増やし、賃金も上昇し、消費も拡大する。製鉄所の新しい建設は、その地域の他の企業や住民に有利な影響を与える。これに対し、従来あった製鉄所の閉鎖は、この逆の影響を及ぼす。企業・家計が市場を通じて相互依存関係にあることから、このような金銭的外部経済・不経済が働くのである。

(2)技術的外部経済・不経済 市場(あるいは価格)機構を通じてではなく、自己の生産関数や効用関数を通して直接ある経済主体が他の経済主体から有利な影響あるいは不利な影響を受けることをいう。他の経済主体から有利な影響を受ける外部経済の例としては、養蜂(ようほう)家が果樹園によって利益を受ける現象が有名である。不利な影響を受ける外部不経済の例としては、工場の排水が漁民の生産活動に損害を与えるとか、工場の騒音が住民に不快感を与えるといった、公害とよばれる現象が典型的なものとしてあげられる。

 技術的な外部経済・不経済は市場機構を経ないで生ずる効果であるので、完全競争の前提とは矛盾する。したがってこのような状況のもとでは、市場機構による資源配分の結果はパレート最適とはならない。そのため課税や補助金などの政府の規制により望ましい資源配分を達成することが必要とされるのである。

[内島敏之]

『A・C・ピグー著、永田清監訳『厚生経済学』全4巻(1953~1955・東洋経済新報社)』『P・スラッファ著、菱山泉・山下博訳『商品による商品の生産』(1962・有斐閣)』『A・マーシャル著、馬場啓之助訳『経済学原理』全4巻(1965~1967・東洋経済新報社)』『今井賢一他著『価格理論』全3巻(1971~1972・岩波書店)』

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