日本大百科全書(ニッポニカ) 「刑事被告人の権利」の意味・わかりやすい解説
刑事被告人の権利
けいじひこくにんのけんり
刑事裁判の被告人は、訴訟の当事者(受動的当事者)として、種々の権利を与えられている。とくに日本国憲法とそれを受けた現行刑事訴訟法は、刑事手続上の人権侵害の危険性を、被告人の権利を十全に保障し、その訴訟主体としての地位を確固たるものとすることで回避しようとしており、その訴訟上の権利は多岐にわたっている。
まず、憲法による包括的な権利保障として、刑事手続が法定の適正なものであることが要求されており(憲法31条、適正手続の保障)、被告人は「公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利」を保障されている(憲法37条1項)。そして、より具体的には、有罪立証の責任を負う検察官の攻撃(訴追)に対抗して自らを防御(弁護)する力が与えられなければならない。そのために、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる」(憲法37条3項)のであり、国選弁護の制度もある(同前)。また、「すべての証人に対して審問する機会を十分に与へられ」(憲法37条2項)、さらに、強制的に証人を求める権利(同前)も保障されているのをはじめ、証拠調べの請求、弁論、上訴申立て等、多くの訴訟行為をする権利を認められている。そして、他面、被告人に供述の義務はなく、公判においても終始沈黙し、または個々の質問に対し供述を拒むことができるのである(憲法38条1項、刑事訴訟法311条1項)。
[大出良知]