一部の動物が誕生直後に経験した特別な対象に対して示す特殊なタイプの学習。〈刻印づけ〉〈インプリンティング〉ともいわれる。このような現象の存在は,少なくとも19世紀後半には知られていたが,その生物学的意味をはじめて明らかにしたのは,K.ローレンツである。ローレンツは,ハイイロガンの雛が孵化(ふか)後,初めて出会った動く対象に対して,それが母鳥であれ人間であれ,あるいは一輪車でさえ,後を追って行くことを発見した。その後の研究によって,刷込みには次のような一般的特徴のあることがわかってきた。(1)学習の成立は出生後のある一定の短い期間(感受期sensitive periodまたは臨界期critical period)に限られる。たとえば,誕生後しばらく仲間から離しておいた雛は,感受期をすぎて戻してももはや仲間となじめず,交配もうまくいかない。(2)いったん刷り込まれると,きわめて安定である。たとえば,人間に刷り込まれた後,母親に引き合わせても,人間に対する刷込みは消えない。(3)早い時期に完了した刷込みがずっと後の行動に影響を与えることがある。たとえば,人間の男性に刷り込まれた雛が,繁殖期に人間の女性を性行動の対象とする。
刷込み現象は,最初鳥類で見つかったものであるが,現在ではテンジクネズミや早成性の有蹄類など哺乳類でも見られることが報告されている。刷込みの機能は,親と子,兄弟姉妹間の親密感を増し,きずなを強めることで安全を図ることにあると考えられるが(なぜなら,自然状態では,最初に出会う動く物体は,ほとんどの場合親か兄弟姉妹であるから),最近では親子の親密感によって近親交配を防ぐ二次的な機能をもつのではないかという説も出されている。
執筆者:奥井 一満
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…このような慣れは,明らかに生後の経験によって獲得した反応であるが,猛禽類の影には決して慣れを示さず,このような能力が遺伝的にプログラムされたものであることを示している。
[刷込みimprinting]
刷込み(インプリンティング)は特殊な形の学習である。これは生後のある時期の経験が,その動物のある行動を規制してしまうもので,とくに生後の初期に生じやすい。…
…このような慣れは,明らかに生後の経験によって獲得した反応であるが,猛禽類の影には決して慣れを示さず,このような能力が遺伝的にプログラムされたものであることを示している。
[刷込みimprinting]
刷込み(インプリンティング)は特殊な形の学習である。これは生後のある時期の経験が,その動物のある行動を規制してしまうもので,とくに生後の初期に生じやすい。…
…したがって,もちろん単一の狩猟本能などというものがないことは明らかであるが,しかし何を獲物とすべきかという点について見れば,親から学習しなければならない。また鳥の〈刷込み〉という現象では,刷り込まれる対象についていえば学習的といえるが,それが起こりうるのは遺伝的に決まった特定の時期だけであり,刷り込まれた対象に向ける行動パターンも遺伝的に決まっている。したがって,ある行動パターンが全体として学習的であるとか生得的であるとかいう議論は無意味であり,むしろその行動パターンがどういう成分からなり,それぞれの成分にどういう動機づけがあり,そのどの部分で学習が作用するかを明らかにするほうが重要である。…
※「刷込み」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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