前張(読み)サイバリ

デジタル大辞泉 「前張」の意味・読み・例文・類語

さい‐ばり【前張】

神楽歌一群で、大前張小前張とに分かれ、計16曲からなる歌。くだけた民謡的な歌が多い。
前張の大口」の略。

まえ‐ばり〔まへ‐〕【前張(り)】

あわせはかまで、前を張り出させたもの。親王摂家せっけなどの元服前の少年が着用した。
裸体演技をする俳優陰部などをかくすためにはりつけるもの。

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精選版 日本国語大辞典 「前張」の意味・読み・例文・類語

さい‐ばり【前張】

[1] 〘名〙
宮廷神楽(かぐら)の第二部(中間部)で歌われる一連の歌の総称。第一部の採物(とりもの)と第三部の星の間に歌われる。大前張(おおさいばり)と小前張(こさいばり)とに分かれる。大前張は短歌形式の歌詞に、はやしことばを入れたり、反復したりして不整形にしたもので、小前張は本来不整形な民謡風のもの。前者格調の高いもの、後者通俗のものである。前張の語源については、催馬楽(さいばら)の歌を取り入れたからとか、「榛(さいばり)に衣は染めん」の歌が「大前張」の一つにあるからだとかの説がある。
※玉葉‐仁安三年(1168)一一月二四日「次御神楽始〈略〉次取物〈略〉次前張」
② 袴の一種。童形装束の半尻(はんじり)の下に着用するもの。袴の前面に大精好(おおぜいこう)、後面に精好を用いて前方を張らせることからいう。まえばり。〔随筆松屋筆記(1818‐45頃)〕
[2] (「榛」とも) (一)①の大前張の七曲中の一曲。

まえ‐ばり まへ‥【前張】

〘名〙
① 前が高くふくれあがるように張り出すこと。
驢嘶余(室町末)「大口の事〈略〉楽の時、舞人はまへばりと云物着する也」
③ 裸体で演技する俳優が陰部などをかくすためはりつけるもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「前張」の意味・わかりやすい解説

前張 (さいばり)

御神楽(みかぐら)に歌う神楽歌の中の,民謡的な一群をいう。御神楽の儀式が,庭燎(火)(にわび),阿知女(あぢめ),採物(とりもの)と荘重に進んで,この前張の部からぐっとくだけて神,人ともに楽しむ宴の趣となる。古くは大前張(おおさいばり),小前張(こさいばり)の2種があった。大前張はほぼ短歌形式の歌詞をもち,小前張はより民謡的な不定形の歌詞をもつ。現在行われるのは小前張に属するもののみで,曲名をあげれば《薦枕(こもまくら)》《篠波(さざなみ)》,神嘗祭だけに用いられる《志都也(しづや)》《磯等(いそら)》,ややこれらと形式,趣を異にする《千歳(せんざい)》《早歌(はやうた)》である。前張の名称は,大前張の中の一曲,《榛(さいばり)》の歌詞〈榛に衣は染めむ〉から出たものであろう。
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世界大百科事典(旧版)内の前張の言及

【御神楽】より

…現行御神楽の原形である〈内侍所(ないしどころ)の御神楽〉は,《江家次第》《公事根源》等によれば,一条天皇の時代(986‐1011)に始まり,最初は隔年,白河天皇の承保年間(1074‐77)からは毎年行われるようになったという。これより古くから宮中で行われていた鎮魂祭,大嘗祭(だいじようさい)の清暑堂神宴,賀茂臨時祭の還立(かえりだち)の御神楽,平安遷都以前から皇居の地にあった神を祭る園韓神祭(そのからかみさい)等の先行儀礼が融合・整理されて,採物(とりもの),韓神,前張(さいばり),朝倉,其駒(そのこま)という〈内侍所の御神楽〉の基本形式が定まり,以来人長(にんぢよう)作法,神楽歌の曲目の増減等,時代による変遷はあったものの,皇室祭儀の最も重要なものとして,よく古式を伝えて今日にいたっている。 御神楽は夕刻から深夜にかけて,神前の庭に幕を張って楽人の座を設け,庭火を焚いて座を清め,これを明りとして行われる。…

※「前張」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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