改訂新版 世界大百科事典 「労働統計」の意味・わかりやすい解説
労働統計 (ろうどうとうけい)
労働統計の範囲を明確に定義づけることはむずかしいが,一つの社会を労働する人間の集団としてとらえ,これを統計的把握の対象とするとき,労働統計が存在すると考えられる。労働統計を労働力,就業,失業,労働移動などの労働の量に関する統計と,賃金,労働時間,生活費,労働争議などの労働の価格に関する統計とに分けて論ずる場合があるが,ここでは労働統計を対象のとらえ方によって次の二つに分けて考えることとする。一つは収入を得ることを目的として仕事に従事する人間を労働者としてとらえ,これを対象とする立場であり,労働者個人を直接,または世帯を通じて把握される。このなかには年齢別,産業別,職業別,従業上の地位別などの就業人口に関する統計や,労働時間,賃金,労働移動,職業紹介などの労働力の質・量,需要・供給などに関する統計が含まれる。もう一つは労働者の働き場所である企業または事業所そのものを対象としてとらえる統計である。そのなかには労働争議などの労使関係の統計のほか,その企業または事業所に働く労働者の全部または一部の労働者を対象とした統計,すなわち,常用労働者数,賃金,入・離職状況,雇用保険,労働災害などの統計が含まれる。
現在日本で作成されている労働統計のうち,総務庁で実施しているものとしては労働力調査,就業構造基本調査,国勢調査,家計調査,労働力調査特別調査などがあり,労働省で実施しているものとしては毎月勤労統計調査,賃金構造基本統計調査,雇用動向調査,職業安定業務統計,雇用保険業務統計,労働争議統計調査,労働災害動向調査,労使関係総合調査,産業労働事情調査などがある。そのうちの代表的なものについて解説すると次のとおりである。労働力調査は,総務庁統計局において日本の人口の就業状態を毎月明らかにすることを目的として1947年7月に開始し,50年4月から統計法による指定統計第30号として実施している。調査は全国の15歳以上の者約10万人を毎月末日現在で調査し,月末1週間の就業の事実について把握している。就業状態,産業,従業上の地位,職業,就業時間などの主要項目については毎月とりまとめて公表している。就業構造基本調査は,総務庁統計局が1956年以来ほぼ3年おきに実施してきており,日本の人口の就業の実態,およびこれに影響を及ぼす諸要因を全国および地域レベルで構造的に明らかにすることを目的としている。調査の期日は10月1日現在であるが,就業の実態はふだんの状態で把握している。また,調査は全国の15歳以上の者約90万人を対象とし,本業に関する産業,職業,就業時間,収入等のほかに,副業,前職,就業希望意識などを詳細に調べている。毎月勤労統計調査は,労働省が毎月常用労働者を常時雇用している非農林業の事業所を対象として調査している。調査対象は,調査の種類によって異なるが,甲調査(全国)に例をとれば常用労働者を常時30人以上雇用する約1万6000事業所である。この調査は常用労働者数,実労働時間数,現金給与額など主に常用労働者の給与,労働時間の毎月の変動を明らかにしている。
執筆者:時田 政之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報