勘文(読み)かんもん

精選版 日本国語大辞典 「勘文」の意味・読み・例文・類語

かん‐もん【勘文】

〘名〙 諸事を考え、調べて、上申する文書平安時代以後、明法道陰陽道など諸道学者神祇官外記などが、朝廷幕府の諮問にこたえて、先例日時方角吉凶などを調べて上申したもの。勘状。かもん。かんがえぶみ。かんぶん。
※東南院文書‐延喜五年(905)一一月二日・因幡国司解「依彼寺牒旨、令郡司勘申、牒送寺家、其勘文偁」
曾我物語(南北朝頃)七「公卿僉議ありて、博士をめしてたづねたまふ。かんもんにいはく」

か‐もん【勘文】

増鏡(1368‐76頃)八「それだにも、あまり騒ぎて、御かもむ・御産衣などの入たる物は焼けにけり」

かん‐ぶん【勘文】

太平記(14C後)二「勘文(カンブン)の表穏やかならず」

かんがえ‐ぶみ かんがへ‥【勘文】

源氏(1001‐14頃)薄雲「みちみちのかむがへふみどもたてまつれるにも」

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デジタル大辞泉 「勘文」の意味・読み・例文・類語

かん‐もん【勘文】

平安時代以後、明法道陰陽道おんようどうなど諸道の学者や神祇官じんぎかん外記げきなどが朝廷や幕府の諮問に答えて、先例・日時・方角・吉凶などを調べて上申した意見書。勘状。勘注。かんがえぶみ。

かん‐ぶん【勘文】

かんもん(勘文)

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改訂新版 世界大百科事典 「勘文」の意味・わかりやすい解説

勘文 (かんもん)

先例,故実,吉凶あるいは事を行う場合の日時の選定などについて,事実および意見を上申する文書。〈かもん〉ともいう。〈勘〉はかんがえるの意。勘状,勘注あるいは注進状ともいい,先例を上申したものは勘例ともいう。勘文の内容はきわめて多種類にわたるが,おおむね朝廷の諸事は太政官の外記と史が,日時・方角については陰陽道,日・月食の時刻は暦・算・宿曜道の諸家が,改元の年号は儒家が,犯罪人の量刑については法家が勘申した。勘文の古い例として《朝野群載》所収の737年(天平9)天然痘流行のときの典薬寮の勘文は,はじめに〈典薬寮勘申疱瘡治方事〉とあり,次に予防と治療の方法を記述し,〈右依宣旨勘申〉とあって,最後に日付と勘文作製者の署がある。以後の勘文の様式もほぼこれと同じである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「勘文」の意味・わかりやすい解説

勘文
かんもん

「かもん」ともいう。天皇・院などの上意を受け、その裁断の資料として先例・故実を考査して提出する答申書。令(りょう)制の諸寮司が提出する諸司勘文と、明経(みょうぎょう)、明法(みょうぼう)、文章(もんじょう)、天文・陰陽(おんみょう)、暦道(れきどう)などが提出する諸道勘文の2種があった。前者の例として、主計寮勘文、主税寮勘文、率分(りつぶん)勘文などがあり、後者の例として、年号、革命、著(ちゃくだ)、服假(ぶっか)、穢(けがれ)、日時、吉凶、日月食、地震などに関する勘文がある。室町時代には武家故実に取り入れられ、将軍の諮問による勘文が徴された。

[棚橋光男]

『布施弥平治著『明法道の研究』(1966・新生社)』

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「勘文」の解説

勘文
かんもん

「かもん」とも。平安時代以降,朝廷や幕府などの諮問に答えて諸司・諸道から上申された文書。政治・儀式などを行う過程で生じた疑義について先例・故実・吉凶などの調査や判断を,関連する諸司や諸道に通じた者に命じて提出させたもの。のちに勘状と称することが多くなる。先例を上申したものは勘例ともいう。勘文を提出する諸司・諸道は多岐にわたっているが,官司には神祇官・外記局・文殿(ふどの)・陰陽(おんみょう)寮などが,諸道には明法(みょうぼう)・紀伝・文章(もんじょう)・陰陽・暦・天文などがある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「勘文」の意味・わかりやすい解説

勘文
かんもん

「かもん」「かんがえぶみ」とも読む。平安時代,朝廷の諮問に対して前例の故実などを調査し,上申した意見文書。おもに太政官の外記 (げき) ,史 (ふひと) ,明法 (みょうぼう) 博士,陰陽 (おんみょう) 博士などが行なった。

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世界大百科事典(旧版)内の勘文の言及

【勘文】より

…勘状,勘注あるいは注進状ともいい,先例を上申したものは勘例ともいう。勘文の内容はきわめて多種類にわたるが,おおむね朝廷の諸事は太政官の外記と史が,日時・方角については陰陽道,日・月食の時刻は暦・算・宿曜道の諸家が,改元の年号は儒家が,犯罪人の量刑については法家が勘申した。勘文の古い例として《朝野群載》所収の737年(天平9)天然痘流行のときの典薬寮の勘文は,はじめに〈典薬寮勘申疱瘡治方事〉とあり,次に予防と治療の方法を記述し,〈右依宣旨勘申〉とあって,最後に日付と勘文作製者の署がある。…

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