鎌倉時代の説話集。〈じっくんしょう〉とも。のちに出家して智眼(ちげん)と名のり,六波羅二﨟左衛門(ろくはらにろうさえもん)入道とも呼ばれた湯浅宗業(むねなり)が,まだ京都六波羅に仕えていたころに執筆したもの,と推測されている。1252年(建長4)成立。3巻。善きことをすすめ悪しきことをいましめて,少年たちが思慮分別をつける縁としようとした,と書かれる。10ヵ条の教訓をかかげ,それぞれの教訓を守った例,教訓にそむいた例を和漢にもとめ,説話を例証として説明する。10ヵ条は,〈心ばせ・ふるまひを定むべき事〉〈憍慢を離るべき事〉〈人倫を侮るべからざる事〉〈人の上に多言等をいましむべき事〉〈朋友をえらぶべき事〉〈忠信・廉直の旨を存すべき事〉〈思慮を専らにすべき事〉〈諸事を堪忍すべき事〉〈怨望をとどむべき事〉〈才能・芸業を庶幾すべき事〉である。いずれも主人に仕える俗人のための教訓,処世訓であり,儒教道徳を基盤としているが,調子は低く,通俗的である。収録説話は,〈才能・芸業を庶幾すべき事〉だけで全体のほぼ4分の1を占め,才芸重視の姿勢がうかがえる。平安時代の説話が多数を占め,随所に王朝貴族文化への憧憬の気持ちがあらわされている。説話は教訓の例証としての枠を忠実に守り,叙述に生彩を欠くが,通俗的な教訓が平易に説かれていることが中世・近世には歓迎されて多くの読者を得,また,近代にも読みつがれた。
執筆者:出雲路 修
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鎌倉中期の教訓説話集。「じっくんしょう」とも読む。その序文から、建長(けんちょう)4年(1252)、少年たちに善悪賢愚の処世の道を示すために、東山の麓(ふもと)に庵(いおり)を結ぶ老遁世(とんせい)者によって編まれたことがわかる。この編者を菅原為長(すがわらのためなが)、あるいは六波羅二﨟左衛門(ろくはらじろうざえもん)入道(湯浅宗業(むねなり))と推定する説があり、どちらも明証を欠くが、後者に比較的高い蓋然(がいぜん)性が認められる。書名の由来は、「可定心操振舞事」、「可離憍慢事」、「不可侮人倫事」、「可誡人上多言等事」、「可撰朋友事」、「可存忠信廉直旨事」、「可専思慮事」、「可堪忍諸事事」、「可停怨望事」、「可庶幾才能芸業事」の10条の徳目を掲げて、各徳目ごとに例話としての説話を集めていることにある。総数540話ほどの収載説話の出典には和漢の典籍が広く用いられ、編者の教養をうかがわせる。本書はその儒教的教訓性からとくに近世以降広く読まれたが、前代王朝的美意識を引き継ぐ懐古性、宮仕えの立場から説く教訓の妥協的、消極的性格などをもって、近年はかならずしも高い評価を得ていない。しかしながら、源平争乱以降の動乱期を巧みに生き残ったしたたかな精神に裏打ちされた書という見方もあり、また平家関係説話など、他書にみえない興味深い説話も少なくない。重要な文学史的課題を担う書といえる。
[木下資一]
『石橋尚宝著『十訓抄詳解』(1902・明治書院)』▽『『研究資料日本古典文学3 説話文学』(1984・明治書院)』
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「じっくんしょう」とも。鎌倉中期の説話集。3巻。作者は妙覚寺本奥書の六波羅二臈左衛門入道説(湯浅宗業(むねなり)とも)や「正徹(しょうてつ)物語」の菅原為長説があるが不詳。成立は1252年(建長4)頃。世間賢愚のふるまいを例に年少者に処世教訓を提示する。全巻で10の教訓が掲げられ,各編は教訓解説の小序とその詳しい説明からなる。教訓説示の事例には,説話のほか経書経典の章句や和歌漢詩文などもひかれ,編著者の豊かな知識とともに中世初頭の知の様相がわかる。「古今著聞集」「東斎随筆」などにとりいれられ,1693年(元禄6)の版行以来,近世にも広く流布した。諸本は4系統あり,原本に近いとされる片仮名本が「新編日本古典文学全集」所収。
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…鎌倉時代の説話集。〈じっくんしょう〉とも。のちに出家して智眼(ちげん)と名のり,六波羅二﨟左衛門(ろくはらにろうさえもん)入道とも呼ばれた湯浅宗業(むねなり)が,まだ京都六波羅に仕えていたころに執筆したもの,と推測されている。1252年(建長4)成立。3巻。善きことをすすめ悪しきことをいましめて,少年たちが思慮分別をつける縁としようとした,と書かれる。10ヵ条の教訓をかかげ,それぞれの教訓を守った例,教訓にそむいた例を和漢にもとめ,説話を例証として説明する。…
…六条家の代表的歌論である。また,雑談の部分が《十訓抄》の資料になったり,《清輔雑談集》として刊行されるなど,説話集としても広く読まれた。【赤瀬 知子】。…
※「十訓抄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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