出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
災害とか戦争などの変事によって一度に多数の死者を葬った場所の伝説。関東以南に散在している。たとえば、千葉県山武(さんぶ)郡片貝町(現九十九里町)にあるそれは、1601年(慶長6)の海嘯(かいしょう)で溺死(できし)した者を葬るというが、また改宗に従わず領主と戦って殺された者たちを埋めたとも伝えている。栃木県下都賀(しもつが)郡皆川村岩出(現栃木市)には、1586年(天正14)における北条氏と皆川氏の合戦の戦死者を埋めた塚が13ある。そのなかの最大のものを千人塚とよんで、毎年旧7月16日に供養の勤行をしている。静岡県浜名郡積志(せきし)村(現浜松市)の千人塚は、1572年(元亀3)の武田信玄(しんげん)と徳川家康の戦いの死者の山を塚としたものと伝えている。岐阜県益田(ました)郡小坂(おさか)町大島(現下呂(げろ)市小坂町大島)の諏訪(すわ)神社前畑中にある千人塚は、昔この地で戦った戦死者の遺骸(いがい)と武器を収めた供養塚で、ここを掘ろうとした者は祟(たた)られたと伝えている。千人塚埋葬のほとんどが戦争被害者であるが、鉱山の陥没とか、切支丹(キリシタン)信者の断罪、多くの餓死者などの埋葬場所としたものもある。食に困った者に椀(わん)を貸したという椀貸し塚のモチーフを備えた静岡県榛原(はいばら)郡白羽村(現御前崎市)のような千人塚の伝承もある。そのほか、供養堂や地蔵堂を併設した塚もある。
[渡邊昭五]
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