南蛮屛風(読み)なんばんびょうぶ

改訂新版 世界大百科事典 「南蛮屛風」の意味・わかりやすい解説

南蛮屛風 (なんばんびょうぶ)

16世紀末期~17世紀中葉の日本で描かれた屛風絵で,当時の南蛮人(ポルトガル人,スペイン人)来日のありさまを主題としたもの。文化史の上では南蛮美術一翼をになうが,美術史の上では桃山時代を中心として展開した近世初期風俗画に属する。多くは六曲一双の屛風絵で,その構成は,ほぼつぎの3種に大別される。(1)向かって(以下同様)左隻に南蛮船入港荷揚げ情景を表し,右隻に船長以下の南蛮寺(キリスト教会)への行進,それを迎える神父たち,西洋人一行を珍しそうに眺める日本人などを描くもの,(2)上記の両隻の図様を右隻にまとめ,左隻には異国市街を背景にした港を出る南蛮船を表すもの,(3)右隻の図様は(2)と同様で,左隻には異国における南蛮人風俗を描くもの,である。まず(1)が成立し,ついで(2)(3)が作られるようになったと考えられるが,(1)の型は南蛮屛風制作の末期にも作られていたようであるから,この類別を制作年代判定の根拠とすることはできない。南蛮屛風は今日約60点の遺品があることからみても,近世初期の南蛮趣味の流行により愛好された画題の一つであって,転写により数多くの作品が描かれた。遺品のうち制作年代が比較的早いと思われる基準作品をみると,画面に表された港や南蛮寺は長崎のそれであるらしい。しかし制作は,京都で最初狩野派画人が手がけ,ついで他の画派や町絵師も描くようになったと思われる。最初の作品の登場は1595年(文禄4)前後であろう。それは秀吉朝鮮出兵の基地名護屋城の障壁画制作のため九州に下っていた狩野光信一門の画家が,業を終えて帰京したころに当たる。光信一門の画家は九州滞在中に長崎を訪れて南蛮風俗に接し,それが南蛮屛風誕生の契機となったと想像される。なお南蛮屛風は鎖国以後も作られたらしい。
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旺文社日本史事典 三訂版 「南蛮屛風」の解説

南蛮屛風
なんばんびょうぶ

安土桃山〜江戸時代初期,南蛮人やその風俗などを描いた屛風
画材は,(1)キリシタン教会堂,(2)使節行列,(3)南蛮船,(4)貿易の状況などが多い。狩野派の画家によって,岩絵具(鉱物から製する顔料)で描かれ,金箔を押した豪華な濃絵 (だみえ) 。主として近畿の廻船問屋や仏教寺院に保存され,神戸市立南蛮美術館に多く収蔵する。

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