鉱物資源を合理的に開発することにより,公共の福祉の増進に寄与することを目的として,登録を受けた一定の土地の区域(鉱区)で,登録を受けた法定鉱物等の排他的・独占的な,掘採,取得をなす物権的権利たる鉱業権の発生,変更,消滅,行使を中心とした鉱業に関する基本的制度を定める法律(1950公布)。
鉱業の起源は古く,石器時代にすでに人類の鉱業的活動が見られるといわれるが,社会の発展とともに,とりわけ貨幣制度との関係で,その国家による権力的規制がなされてきた。日本においては,明治時代以前は,明確な鉱業法制は存在しなかったが,慣行的に,大宝令以来,鉱業についての政府の優先権が確立しており,個人の鉱業は貢物のためになすもののみが認められていた。徳川時代に入ってからは,金山,銀山の経営は幕府が直営し,銅山以下の鉱業は主として各藩にこれを経営させていた。しかし島津家が金山を経営したり,住友家が銅山を経営するといった例外もあった。当時,鉱業に関する法制度として山法二七箇条があったが,これは鉱山における犯罪の罰則を定めるもので,むしろ刑法の一種であった。そのほかには,貨幣制度との関係で,金銀銅の売買輸送に関してはつねに厳重な監督がなされており,明治初年まで続いた。
1869年(明治2)に行政官布告第177号により,鉱山の開拓が一般人民に開放されたが,国家の請負をなすことを認める開放にすぎなかった。その後,72年の鉱山心得によって,鉱物が定義され,鉱業の国家独占主義と外国人の排斥の原則が確立された。73年の日本最初の体系的鉱業法である日本坑法は,鉱物はすべて政府の所有にして,ひとり政府のみがこれを採掘する権利を有し,私人は借区によって15年間の期間で鉱物の採掘をなしうると定め,鉱物の国家独占主義を継承した。しかし,当時すでに,欧米の各国は鉱業の国家独占主義をとっておらず,これはむしろ鉱業の発展を阻害するとされたため,90年,新たに主としてプロイセンの制度にならった鉱業条例が制定され,国家独占主義を廃し,鉱業を特許を要する自由主義の下に置き,借区に代えて永久の権利としての採掘権が設けられた。その後,鉱物の種類を増加したり,鉱業権を試掘権と採掘権に分けて定め,ともに私権として不動産に関する民法の規定を準用することとする等の整備を加えて,1905年に旧鉱業法が成立した。同法は,その後数次の改正が加えられつつ,第2次大戦の終了まで日本の鉱業法制の基本法として機能した。
敗戦によって,新時代に対応する鉱業法の改正の必要が主張され,50年旧鉱業法と砂鉱法(1909公布)とを廃し現行の鉱業法が制定された。同法は旧法の基本的部分を引き継ぎつつ,それにかなり重要な変更を加えるものであった。その主要な変更は,鉱物資源の合理的開発による公共の福祉の増進を究極の目的として掲げたこと,法定鉱物の種類を増やしたこと,鉱物資源の遺利のない開発を期するための制度として,他人の鉱区・鉱床において設定行為に基づいて鉱物を採取する権利である租鉱権を設けたこと,試掘権の延長の制度を設けたこと,鉱物資源の合理的開発のために通商産業局長の鉱区整理等に関する勧告や鉱業権者相互間の協議の制度を設けたこと,鉱害の賠償について予定賠償額の第三者に対する対抗力や地方鉱害賠償基準協議会(その後の法改正により,現在では地方鉱業協議会)への通産局長の諮問,鉱害紛争の和解等の制度を設けたこと,鉱業のための土地収用規定を拡張すると同時にその手続に原則として土地収用法を適用することとし,通産局長の重要な処分に事前の聴聞の手続を導入したこと,鉱業と他の産業や公共の利益との調整を図るため,土地調整委員会(現在では公害等調整委員会)による鉱区禁止地域の指定や通産局長の処分に対する裁定の制度を設けたこと等であった。
その後,日本の工業技術水準の上昇や経済環境の変化に対応して,法定鉱物の拡大や鉱業と一般公益との調整制度の改善等のための法改正が逐次行われて,今日に至っている。
執筆者:来生 新
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鉱物資源を合理的に開発することによって公共の福祉の増進に寄与するため、鉱業に関する基本的制度を定めた法律。昭和25年法律第289号。明治以後の、わが国の鉱業法の発展は、1869年(明治2)の行政官布告第177号に始まり、71年の太政官(だじょうかん)布告第173号、72年の太政官布告第100号「鉱山心得」を経て、73年の太政官布告第259号「日本坑法」において初めて法律としての体裁が整えられた。これらの諸法令は、鉱産物はすべて政府の所有に帰し、その開発権も政府が独占することを定めて、鉱山の国家専有主義の考え方を基礎とするものであった。その後、資本主義経済の台頭に伴い、鉱業の自由化と合理的開発を促進すべき気運が高まり、1890年(明治23)の「鉱業条例」において、一定の要件のもとに平等に鉱業経営の自由を認めることになり、これが鉱業法の基本的理念として確立された。1905年のいわゆる旧「鉱業法」は、鉱業に関する法令の集大成で、約50年間、18回の改正を経ながら日本の鉱業を規制した。改正のなかでは、鉱業賠償の章が追加され、無過失賠償責任を認めた点で、画期的な意義を有するものであった。現行の鉱業法は、第二次世界大戦後の法体系の変革および社会・経済的発展に対処するため、旧鉱業法にかわって制定されたものである。
現行鉱業法は10章194か条からなる。第1章「総則」では、本法の目的、国が鉱業権を賦与する機能を有すること、未掘採鉱物は鉱業権によるのでなければ掘採してはならないこと、鉱業・鉱業権・租鉱権の定義など、基本的事項を定める。第2章「鉱業権」では、鉱業権は試掘権と採掘権の2種とすること、およびそれらの法律上の性質、鉱業権者となりうる者は日本国民または日本国法人でなければならず、鉱業権設定のためには通商産業局長の許可を受けなければならないこと、許可は出願の日時の先の者が優先権をもつことなど、鉱業権設定のための出願手続と審査基準、出願の変更、鉱業権の変更と消滅、鉱業権の登録等の事項を定め、また、鉱区の面積と公益との調整のための制限、試掘権の存続期間を規定している。第3章「租鉱権」では、租鉱権の性質、租鉱区の境界、租鉱権の設定と存続期間、設定の申請方法、租鉱権の変更・消滅・取消等に関して定める。第4章「勧告及び協議」では、鉱物資源の合理的開発のため、必要な場合には、鉱業権の交換または売渡、鉱区の増減、施業案の変更等について通商産業局長が鉱業権者に勧告しうること、およびその手続・効力についての規定を置いている。第5章「土地の使用及び収用」では、鉱業を行おうとする者に測量または実地調査のため他人の土地への立入り、使用および収用が可能であること、およびその手続が定められている。第6章「鉱業の賠償」では、鉱物の掘採により他人に損害を与えた場合、損害発生時の鉱業権者または租鉱権者が無過失賠償責任を負うこと、およびその基準・範囲、担保の供託、和解の仲介について定める。また第6章の2「地方鉱業協議会」では、鉱業権取消等の処分による損失補償、負担金の額ならびに鉱業賠償の適正な基準に関して調査審議する地方鉱業協議会の設置・組織・運営などを定めている。第7章「不服申立て」では、鉱業に関する通商産業局長の行政処分に対して不服申立てができること、およびその手続について、第8章「補則」では、鉱業権の設定の出願などの手数料の限度、通商産業局長の行う行政処分の公示・掲示などについて定め、第9章「罰則」では、盗掘、侵掘など本法違反に対してそれぞれ罰則を定めている。なお、本法の付属法令として、鉱業法施行法、鉱業法施行規則、鉱業登録令、鉱業法関係手数料令、鉱害賠償登録令などが、また関係法律としては採石法、鉱山保安法、公害等調整委員会設置法、石油業法などがある。
[宮田三郎]
『我妻栄・豊島陞著『鉱業法』再版(『法律学全集51』1990・有斐閣)』
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…とくに九州地方では土地陥没を中心とする被害が拡大し,これは鉱害賠償金の継続的な増大を招くこととなった。このため,戦時体制下の生産力拡充政策が乱掘を必至とした中では,無過失責任制度をとり入れた鉱業法の改正も必要となり,39年鉱業権者の無過失責任が定められた。石炭鉱業による鉱害のほか,戦時体制下では,36年11月20日の尾去沢鉱山での廃滓ダムの決壊や,43年9月10日の岩美鉱山における同様の事件など大規模な災害も発生している。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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