家庭医学館 「原発性免疫不全症」の解説
げんぱつせいめんえきふぜんしょう【原発性免疫不全症 Primary Immunodeficiency Disease】
リンパ球、好中球(こうちゅうきゅう)、補体(ほたい)などの感染防御因子(かんせんぼうぎょいんし)のどれかが、先天的異常をおこしているためにおこる病気です。さまざまな感染がくり返しおこり、なかなか回復せず、重症化していきます。
多種多様な病型がありますが、以下に代表的なものを解説します。ほとんどが遺伝する病気です。
■無(む)ガンマグロブリン血症(けっしょう)
免疫細胞の1つであるB細胞が先天的に欠けているため、抗体(こうたい)(ガンマグロブリン)をつくることができない病気です。男性だけが発病する(伴性劣性(ばんせいれっせい))遺伝病です。
●症状
発病する時期は、母体からもらった抗体が消失する生後4~6か月で、皮膚化膿症(ひふかのうしょう)、中耳炎(ちゅうじえん)、気管支炎(きかんしえん)、肺炎(はいえん)などをくり返しおこすようになります。炎症をおこす菌は、ブドウ球菌、溶連菌(ようれんきん)、肺炎球菌(はいえんきゅうきん)などで、ウイルス、カンジダ、緑膿菌(りょくのうきん)、結核菌(けっかくきん)は原因になりません。ぜんそくや関節(かんせつ)リウマチをともなうこともあります。
●治療
ヒトの血液からつくられたガンマグロブリン製剤を定期的に静脈注射すれば、感染を予防することができます。しかし、治療の開始が遅れたり、ガンマグロブリン製剤の量が十分でないと、気管支拡張症(きかんしかくちょうしょう)(「気管支拡張症」)が生じて、病状が悪くなります。早期診断、早期治療がたいせつです。
■胸腺低形成(きょうせんていけいせい)(ディジョージ症候群(しょうこうぐん))
生まれつき胸腺(きょうせん)の形成が未熟で、そのはたらきが発揮されない病気です。
リンパ球の1つであるT細胞は、胸腺でつくられますが、胸腺低形成では、細胞性免疫のはたらきが低下し、出生直後から、ウイルス、真菌(しんきん)(かび)、大腸菌(だいちょうきん)、緑膿菌、原虫(げんちゅう)の感染をくり返します。
●症状
この病気には、胸腺低形成のほかに、先天性の心臓の形態異常、顔面やあごの低形成、副甲状腺(ふくこうじょうせん)の欠損によるけいれんがみられます。こうした合併する形態異常の程度によっても、予後が左右されます。
こうした症状のほか、血液検査でT細胞の著しい減少がみられれば、胸腺低形成と診断されます。
●治療
この病気は、早期診断が重要で、胎児(たいじ)の胸腺を移植する手術によって、T細胞が増え、免疫のはたらきを回復させることができます。
■重症複合型免疫不全症(じゅうしょうふくごうがためんえきふぜんしょう)
生まれつき、T細胞とB細胞という2種のリンパ球が欠けているために、乳児期から、あらゆる病原菌に感染することで重症化する病気です。
伴性劣性遺伝(ばんせいれっせいいでん)、常染色体劣性遺伝(じょうせんしょくたいれっせいいでん)、アデノシンデアミネースの欠損など、いくつかのタイプがあります。
●症状
いずれも、生後2か月ころから、慢性の下痢(げり)、せき、呼吸困難、発疹(ほっしん)が現われ、皮膚や粘膜(ねんまく)のカンジダ症やカリニ肺炎(はいえん)にかかり、しだいに栄養失調におちいる悲惨な病気です。
●治療
ADA(アデノシンデアミネース)欠損症(けっそんしょう)では、その酵素(こうそ)の補充療法と、酵素をつくる遺伝子をからだに組み込む遺伝子治療が行なわれます。
T細胞、B細胞が欠けるタイプでは、これらのリンパ球をつくり出す骨髄(こつずい)を、移植する手術が行なわれています。
■ウィスコット・アルドリッチ症候群(しょうこうぐん)
伴性劣性の形式で遺伝する、免疫不全症です。血小板(けっしょうばん)が減少して生じる出血、湿疹(しっしん)、反復する感染、ある種の菌抗原に対する抗体がうまくつくれない、などの異常がみられます。
●症状
出生直後から皮膚の皮下出血(ひかしゅっけつ)(紫斑(しはん))、血便(けつべん)、吐血(とけつ)がみられ、脳出血をおこすことも少なくありません。
皮膚に治りにくい湿疹が現われ、やがて、肺炎球菌(はいえんきゅうきん)や大腸菌(だいちょうきん)による中耳炎(ちゅうじえん)や肺炎をくり返すようになります。
髄膜炎(ずいまくえん)(「髄膜炎とは」)や敗血症(はいけつしょう)(「敗血症」)など、重症の感染症もみられます。
●治療
現在のところ、骨髄移植(こつずいいしょく)が唯一の治療法と考えられています。
■毛細血管拡張性失調症(もうさいけっかんかくちょうせいしっちょうしょう)
常染色体劣性遺伝する病気です。
ゆるやかに発病します。幼児期から、歩行時のふらつき、ことばのもつれ、舞踏病(ぶとうびょう)のような不随意運動(ふずいいうんどう)などが現われます。やがて、眼球結膜(がんきゅうけつまく)や耳たぶの毛細血管が太くなります。さらに、肺炎、気管支炎、副鼻腔炎(ふくびくうえん)などの呼吸器の感染症にくり返しかかるようになります(反復感染(はんぷくかんせん))。
これらの症状は、年齢とともに進んで10歳代のなかばから、運動機能不全、呼吸不全、免疫不全をきたします。
紫外線や放射線に対する感受性が高く、発がん率が異常に高いのも、この病気の特徴です。
●治療
残念ながら、この病気の有効な治療法はありません。
紫外線や放射線に対する高い感受性は、この病気の子どもの兄弟姉妹や両親にもみられます。発がんを抑えるために、日焼けを予防し、X線写真の撮影もできるだけ少なくします。
■慢性肉芽腫症(まんせいにくげしゅしょう)
からだの中に細菌が侵入すると、血液中の好中球(こうちゅうきゅう)が活性酸素(かっせいさんそ)をつくりだし、その酸化する力で殺菌するしくみがあります。慢性肉芽腫症は、先天的に、この好中球の活性酸素をつくる力が弱く、殺菌能力が低下するために、細菌の感染をくり返す病気です。
●症状
乳児期から、皮膚や毛髪部におできができ、化膿(かのう)します。中耳炎、肺炎、リンパ節炎、肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)をくり返します。肝臓に膿瘍ができることがあります。
●治療
根本的な治療法はありませんが、γ(ガンマ)インターフェロンの使用や、骨髄移植が有効と考えられています。