浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。世話物。九段。竹田出雲(いずも)・三好松洛(みよししょうらく)・並木千柳(せんりゅう)合作。1749年(寛延2)7月、大坂・竹本座初演。享保(きょうほう)年間(1716~36)に実在したという力士濡髪(ぬれがみ)長五郎の事跡を、近松門左衛門作の『寿門松(ねびきのかどまつ)』の登場人物を絡ませて脚色。名題(なだい)の「双蝶々」は長五郎と長吉という2人の力士の名を示している。大坂名代の力士濡髪長五郎が恩人の子山崎与五郎とその恋人の吾妻(あづま)のために奔走する話で、これに米屋の息子の力士放駒(はなれごま)長吉とその姉おせき、山崎の家来筋の南与兵衛(なんよへえ)とその愛人遊女都(みやこ)(のち女房お早)などが絡む。とくに有名なのは二段目「角力場(すもうば)」と八段目「引窓(ひきまど)」で、歌舞伎(かぶき)でもしばしば上演される。「角力場」は、吾妻が西国(さいこく)の侍平岡郷左衛門に身請けされそうになるので、濡髪が平岡の後援する放駒との相撲(すもう)に勝ちを譲り、吾妻身請けの延期を頼むが、放駒が拒否して喧嘩(けんか)別れになるまで。相撲場付近の情景描写と両力士の対照の妙によって、短いながら見ごたえがある。「引窓」は、平岡たちを殺して御尋ね者になった濡髪が、八幡(やはた)の里の実母を訪れる場面。母はその家の当主南与兵衛の亡父の後妻で、与兵衛は親の名南方十次兵衛(なんぽうじゅうじべえ)を継ぎ、濡髪捕縛の役人に任命されたが、義母の心を察し、義弟を救うためにお早とともに苦心する。濡髪が覚悟を決めて母の手で引窓の縄にかかると、与兵衛はその縄を切り、差し込む月光を夜明けに見立て、昼間は自分の役目でないといって濡髪を逃がしてやるという筋。引窓をかせに展開される舞台技巧と秋の詩情、登場人物間の義理と人情の絡み合いの描写が優れている。
[松井俊諭]
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