行政事件訴訟について他の法律に特別の定めがある場合を除き適用される基本法。昭和37年法律第139号。この法律に定めがない事項についてのみ、民事訴訟法が適用される。民事訴訟法の特例としてわずか12条しかなかったそれまでの行政事件訴訟特例法にかわって制定された。この法律は、刑事訴訟法、民事訴訟法と並ぶ第三の訴訟法たる地位を有するものではないが、民事訴訟法の単なる特例法ではなく、行政事件訴訟という独立の訴訟制度を定めるものである。2004年(平成16)に大幅な改正法が成立、2005年に施行された。
この法律は、行政事件訴訟とは抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟および機関訴訟をいうものとして、それぞれ定義規定を置き、これについて行政事件訴訟にふさわしい規定を置くたてまえになっている。中心となるのは抗告訴訟、なかでも取消訴訟に関する規定である。第8条から第35条までは取消訴訟に関する定めである。取消訴訟以外の抗告訴訟である無効等の確認の訴えと不作為の違法確認の訴え、さらに2004年改正で明文化された義務づけ訴訟と差止訴訟については、それぞれの特質に応じた特例規定が置かれ、取消訴訟の規定のうちその性質に応じて必要なものを準用している(同法36条~38条)。取消訴訟は処分その他の違法な公権力の行使を取り消す(その効力を消滅させる)訴訟である。原則6か月の出訴期間の定めがある。この期間を徒過した場合には、無効等確認の訴えまたは争点訴訟が利用される。許認可を申請しても返事がない場合には、これまでは単に返事がないことの違法を確認する不作為の違法確認の訴えしかなかったが、2004年改正で、許認可などをせよとの義務づけ訴訟が導入された。また、違法な行政処分がなされそうで、なされてから争ったのでは重大な不利益を被るときは、差止訴訟が許されることとなった。そして、仮の救済としては、これまで取消訴訟に対応するものとして、執行停止の規定しかなかったが、義務づけ訴訟、差止訴訟に対応するものとして、それぞれ仮の義務づけ、仮の差止めが導入された。
当事者訴訟には、形式的当事者訴訟(例、土地収用裁決により土地を収用された者が補償額の増額を求めて起業者すなわち収用地を公共事業の用に供する者を被告に提起する訴え)と、実質的な公法上の当事者訴訟がある。後者はもともと、公務員の給与支払請求、過誤納租税の返還請求を例としており、ほとんど利用価値がなかったが、2004年改正で、抗告訴訟の対象(処分)の概念を拡大しないかわりに、当事者訴訟を活用して、権利救済の道を広げることとされ、現に混合診療禁止を違憲として、保険診療を受ける地位の確認の訴え、在外邦人の選挙権確認の訴えなどが適法とされている(同法4条、39条~41条)。
民衆訴訟(選挙訴訟、住民訴訟)、機関訴訟(地方議会と首長の間の争い等)は、法律に定める場合において法律に定める者に限り提起することができる訴訟である。本法はこれらについて取消訴訟の規定の一部を準用している(同法5条、6条、42条、43条)。
このほか、本法は訴訟形式のいかんを問わず、行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為については民事保全法に規定する仮処分をすることができないことを定めて、仮の救済を制限しているとともに(同法44条)、民事訴訟の前提問題として行政処分の存否または効力の有無が争われているいわゆる争点訴訟(例、公売処分の無効を理由とする公売物件の返還請求訴訟)について若干の特例を置いている(同法45条)。
[阿部泰隆]
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…しかし,その後占領下での国務大臣の公職追放事件を契機にして行政事件に対する訴訟手続のあり方が論議されるに至った。その結果,行政事件は,国や地方公共団体等の行政主体と国民との間の法的紛争であることから,これを私人相互間の争いである一般の民事事件と同様の手続で処理することが必ずしも適切ではないと考えられたために,行政事件については,1948年に行政事件訴訟特例法が制定され,ついで62年には現行法である行政事件訴訟法が制定された。
[現行制度]
現行の行政訴訟制度は,戦前の行政裁判制度と比較すると,民事事件・刑事事件についてと同様の三審制が採られ,出訴事項についても一般概括主義が採用されるなど大幅な改善をみたが,他面,民事保全法による仮処分の排除(行政事件訴訟法44条),執行不停止原則(25条1項。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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