国・地方公共団体その他の公共団体の不法行為責任を定めた法律。昭和22年法律第125号。明治憲法時代は、公務員の公権力の行使に関しては、いわゆる主権免責任の法理により国・公共団体の責任を問うことができず、また、道路・河川その他の公の営造物の設置管理の瑕疵(かし)に起因する損害について民法第717条により賠償責任を問うことができるかどうかも疑問であった。そこで、日本国憲法第17条は、この権利救済の空白を埋めるため国家賠償法の制定を立法者に義務づけたのである。
その第1条は、公務員が公権力を行使する職務を行うにあたって故意または過失により違法に他人に損害を加えたとき、国または公共団体が賠償責任を負うと定める。これは、公務員の不法行為を前提として、国または公共団体が被害者に対して責任を負う代位責任である。公務員自身は、故意または重過失があるときには、国または公共団体に弁償しなければならないが、被害者に対しては直接には賠償責任を負担しないとするのが通説判例である。公権力の行使によらない公務員の加害行為については、国または公共団体は民法第715条の使用者責任を負い、公務員個人は民法第709条により被害者に対して責任を負う。公権力の行使とはもともと命令強制作用と解されてきたが、近時は教育、行政指導、公表などの非権力的公行政作用も含むとされている。
国家賠償法第2条は、道路・河川その他の公の営造物の設置管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは国または公共団体が賠償責任を負うとする。ここで瑕疵とは第1条の過失よりもより客観化され、通常の安全性を欠くこととするのが通説であるが、近時は管理者の義務違反とする説も有力である。道路に穴ぼこがあったり、工事中の赤灯が消えていたり、大型トラックが長時間停車していたり、崖(がけ)崩れで通行中の車が谷底に押し流されたり、石に当たったりというのが典型例である。道路の設置管理の瑕疵により発生した損害賠償費用が膨大になるため、道路を管理する都道府県、市町村はいわゆる道路保険に加入するようになっている。水害はもともと天災であったが、近時はこれを人災として河川の管理の瑕疵を問う訴訟が増えている。下級審はこれを積極的に認容する傾向にあったが、最高裁はこれにややブレーキをかける傾向にある。
そのほか、賠償責任者、民法の準用、特別法の優先適用、外国人に対する相互保証条項の規定がある(3~6条)。
[阿部泰隆]
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…日本国憲法では,基本的人権の一環として,国あるいは都道府県・市町村のような公共団体(以下たんに〈国〉という)の公務員の不法行為によって損害を受けたときには,いかなる人にも,法律の定めるところにより〈国〉に賠償を求める権利が認められている(17条)。この憲法の規定を受けて作られた法律が国家賠償法(1947公布)である。しかし,国家賠償法は,公務員の不法行為に関する国の責任だけではなく(1条),道路・河川あるいは学校の建物等〈公の施設〉(〈公の営造物〉ともいう)の設置管理にミス(瑕疵(かし))があった場合にも,〈国〉が責任を負うことを定めている(2条)。…
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