〈託身〉ともいう。《ヨハネによる福音書》1章14節の〈言(ことば)(ロゴス)は肉となってわれらの内にやどった〉の句に由来し,神が人間となって救いをなしとげたとするキリスト教の根本教義。しかしこれはまったくの逆説であるため,その理解をめぐって多くの論争がなされた。グノーシス派によれば,これは人間が肉の中に隠れた神性を発見することにほかならず,それゆえ肉体は霊魂の仮の宿にすぎないとされる。これを〈仮現説docetism〉という。ヨハネはこれに対し,受肉を十字架と復活の前提としただけでなく,ロゴスのできごととして意味づけ象徴化したのだといえる。のちにアタナシオスは受肉による肉体の浄化を説き,アンセルムスは受肉なしには人類は滅びをまぬかれなかったとしてその必然性を論じ,フォーサイスは受肉を終末論的な救済に結びつけて理解したが,これらはいずれもロゴスの中に創造と救済の統一をおいて,その神学的意味を明らかにしたものである。
→キリスト論
執筆者:泉 治典
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…キリスト教は〈愛の宗教〉と呼ばれ,実際に〈神は愛である〉(《ヨハネの第1の手紙》4:16)と宣言するが,この愛の原型は十字架につけられたキリストである。さらに十字架は,受肉(托身),三位一体など,キリスト教の中心的な神秘を予想し,復活の信仰と結びつく。キリスト信者とは自分の十字架を担ってキリストに従う者にほかならない。…
… 肉と霊,肉体と精神の二元論は宗教が成立する基盤である。イエスの生誕を〈受肉〉と言うキリスト教のカトリックの教義には七つの秘跡(サクラメント)があり,その一つが聖体または聖餐の秘跡である。別名〈肉と血の秘跡〉で,信者がキリストの肉と血を象徴するパンとブドウ酒を受けることをいい,新約聖書にあるように,キリストが〈最後の晩餐〉のときにこれを定めたとされる。…
※「受肉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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