託身(読み)たくしん

精選版 日本国語大辞典 「託身」の意味・読み・例文・類語

たく‐しん【託身】

  1. 〘 名詞 〙 ヨーロッパ中世封建社会の臣従儀式。カロリンガ朝時代にひろまる。家臣主君一身を託し、生涯の忠誠を誓う。

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改訂新版 世界大百科事典 「託身」の意味・わかりやすい解説

託身 (たくしん)

コンメンダティオcommendatioの訳語で,一般的には自己の一身を相手方の保護と支配とに託し,相手方との間に支配=服従の関係を設定する行為を指すが,これがとくに問題にされるのは,ヨーロッパ封建制における封主=封臣関係の設定行為と関連してである。すなわち,封主=封臣関係の設定は,封臣たるべき者が封主たるべき者のもとにおもむき,封主に対して〈誠実宣誓fidelitas〉をおこなうとともに,自分の両手を合わせて差し出し,封主がこの封臣の手を自分の両手で外側から包む,という行為によっておこなわれた。〈託身〉の語は,この臣従行為のうちで,誠実の宣誓を含まず,手の授受による服従儀礼のみを指す。この託身行為(手の授受行為)は,ゲルマン人の間には見られず,ローマ帝政期のガリア慣行が,民族移動の時代を越えてフランク王国の時代にもち込まれたものである。例えば8世紀の史料によると,衣食に窮した貧民が有力者に託身し,経済的扶養を受けるとともに,一生涯主人の権力に服し,あらゆる種類の勤務に服することを約束している。この例からもわかるように,託身によって設定される主従関係は,隷属的な色彩の強い〈家産制的〉支配関係である。託身者がウァススvassus,ウァサルスvassallus(隷属者を意味するケルト語のグワスgwasに由来する中世ラテン語)と呼ばれたのも,そのためである。しかしのちには,彼らの中で軍事勤務に服する者だけがウァスス,ウァサルス(これらの語はのちには封建家臣を意味するに至った)と呼ばれるようになり,他方で,彼らとゲルマン古代以来の〈従士〉(従士関係は誠実の宣誓のみによって設定された)とが融合し,しだいに本来の意味の〈封建家臣〉が成立するに至った。その時期はほぼ8世紀後半である。本来の封建主従関係の設定は,それの二重の起源に照応して,〈誠実の宣誓〉と〈託身〉とによっておこなわれた。
従士制度 →封建制度 →封建法
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託身(キリスト教) (たくしん)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「託身」の意味・わかりやすい解説

託身(封建的臣従の儀礼)
たくしん

封建的臣従の儀礼、コメンダティオcommendatioの訳。ヨーロッパ封建制における主従関係の設定にあたり、家臣は主君に誠実の宣誓を行い、自分の両手をあわせて差し出し、主君は自分の両手でこれを包む。この臣従の儀礼全体をいうこともあるが、元来は手の授受行為のみをさした。その起源は、ガロ・ロマン社会における支配―隷属関係の設定行為にあり、託身によって相手方の権力に服するかわりに、政治的保護や経済的援助を求める慣行で、それはフランク時代にも受け継がれた。これにゲルマン古代以来の従士関係にみられる誠実の宣誓が結び付き(8世紀後半ごろ)、双務的契約の色彩を帯び、封建制下の臣従儀礼が確立するに至った。

[井上泰男]


託身(インカーネーション)
たくしん

インカーネーション

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「託身」の意味・わかりやすい解説

託身
たくしん
commendatio; commendation

ヨーロッパ中世封建社会において,一身を主君に託することを意味し,狭義にはその主従関係を正式に定める場合の法行為をいう。封建貴族と農民との間では,自由民である農民が人格と所有をすべて有力者にゆだね,そのかわりとして土地の使用権を得ること,すなわち農奴となることを意味し,また封建貴族間の主従関係では,家士の臣従としての奉仕,忠誠の宣誓と,主君の家士に対する封土の授与による保護意思の表示という行為によって託身が行われ,その象徴として両手を重ねて主君の手のひらに載せる儀式が行われた。

託身
たくしん

「インカルナチオ」のページをご覧ください。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「託身」の解説

託身(たくしん)
commendatio

封建的臣従の儀式。ガリア・ローマ的起源。カロリング朝期に普及。家臣となる者は両手をあわせて主君の手中に置き,主君に一身を託し保護と扶養を受ける代わりに,一生主君に対し奉仕,服従することを誓った。

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旺文社世界史事典 三訂版 「託身」の解説

託身
たくしん
commendation

中世の封建制度において,家臣が主君に対して行った臣従の儀式
両手を重ねて主君の掌中におき,一身を主君に託することを示す。

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百科事典マイペディア 「託身」の意味・わかりやすい解説

託身【たくしん】

受肉

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普及版 字通 「託身」の読み・字形・画数・意味

【託身】たくしん

託生。

字通「託」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の託身の言及

【受肉】より

…〈託身〉ともいう。《ヨハネによる福音書》1章14節の〈言(ことば)(ロゴス)は肉となってわれらの内にやどった〉の句に由来し,神が人間となって救いをなしとげたとするキリスト教の根本教義。…

【カロリング朝】より

…騎兵が自費で従軍し,馬と武具とを常備するためには相当の原資を要し,かつ武技の習熟には恒常的訓練を要するために,農耕生活とは両立しえない。したがって王の常備軍を事実上構成していたのは,いわゆる〈カロリング封建制〉において,託身(コンメンダティオ)と忠誠fidelitasとによって主君dominusたる王の家臣となり,恩貸地(ベネフィキウム)を賦与されていた〈王の家臣vassi dominici〉層であったと考えられる。トゥール・ポアティエの戦(732)の直後から,カール・マルテルやピピン3世は,教会・修道院所領に,〈王の命令による賃貸地(プレカリア)precaria verbo regis〉を設定し,これを恩貸地とした。…

【受肉】より

…〈託身〉ともいう。《ヨハネによる福音書》1章14節の〈言(ことば)(ロゴス)は肉となってわれらの内にやどった〉の句に由来し,神が人間となって救いをなしとげたとするキリスト教の根本教義。…

【封建制度】より


[成立]
 レーン制は,起源を異にする二つの制度,すなわち〈家士制Vasallität(ドイツ語),vassalité(フランス語)〉と〈恩給制Benefizialwesen(ドイツ語),bénéfice(フランス語)〉の結合によって成立した。家士制の説明から始めると,ローマ末期のガリアにおいては,自由民は大きく〈有力者potentes〉と〈被護民clientes〉とに分かれ,被護民は託身によって一生涯主人たる有力者の権力に隷属し,主人の保護にあずかるとともに,種々さまざまの奉仕義務を負担していた。この主人と被護民との間の支配関係は,隷属的色彩の強い〈家産制〉的支配関係である。…

※「託身」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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