新井白石(あらいはくせき)著の歴史書。付録の『古史通或問(わくもん)』とともに白石が仕えた6代将軍徳川家宣(いえのぶ)没後の1716年(享保1)に書かれたものであるが、その中心的部分はすでに家宣の藩邸時代に献上されている。家宣(甲府綱豊(こうふつなとよ))の命によって、『旧事紀(くじき)』『古事記』などを参照して『日本書紀』神代巻の記述について解釈を試みたものである。それはたとえば「神は人也(なり)」とするある種の合理主義的立場から出発して、高天原(たかまがはら)は常陸(ひたち)国(茨城県)の多珂(たが)郡にあるというように神話を歴史的事実として解釈するというものであった。白石は本文(全4巻)に先だつ「読法」と「凡例」のなかで、「史は実に拠(より)て事を記して世の鑑戒を示すものなり」と記しており、道徳的教訓を示すものという視点で事実を選定している。この基準から、朱子学者としての白石の君主徳治主義的な観点に見合うものが史実として選定されている。また『或問』(全3巻)は問答形式で『古史通』の記述について説明を加えている。『新井白石全集』第3巻所収。
[奈倉哲三]
『尾藤正英著「新井白石の歴史思想」(『日本思想大系 35 新井白石』所収・1975・岩波書店)』▽『伊豆公夫著『新版日本史学史』(1972・校倉書房)』
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日本神話の歴史的解釈書。4巻。新井白石著。1716年(享保元)成立。初稿本は徳川綱豊(家宣)に上呈され,のち「古史通或問(わくもん)」とともに撰述された。「先代旧事本紀」「古事記」「日本書紀」などを参考にして神代から神武天皇に至る日本国家成立史を解釈。白石の歴史研究の立場は,巻首の「古史通読法凡例」に示されるように儒教の合理主義に支えられたもので,「神は人也」の語はそれを象徴する。「古史通或問」3巻は「古史通」の重要な論点を質疑応答の形で論述し,中国古典籍の利用や地名の言語学的解釈など,白石の歴史研究の基礎的な方法を集約的にのべる。「新井白石全集」「新註皇学叢書」所収。
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…朱子学派ではあるが広く地誌・教育・経済の領域に業績を残した貝原益軒は神社史の考証とともに神儒併行論を主張した。新井白石は朱子学系統の学者ではあるが日本の歴史地理にも通暁し,その著書《古史通》において神代史に対し合理的解釈を展開,〈神は人なり〉の立場から,儒教的合理主義の神道観を究極まで発展させた。古学派の祖山鹿素行も広田坦斎から忌部流の神道を伝授されたと伝えているが(《配所残筆》),これが彼の武学思想における日本主義的傾向の一要因となったことは確かである。…
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