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新井白石(あらいはくせき)の著した史論書で、1712年(正徳2)における将軍徳川家宣(いえのぶ)への進講案。摂関(せっかん)政治から徳川家康の政権獲得に至る(実際は豊臣(とよとみ)秀吉の事業)までの政治史で、文徳(もんとく)天皇の世から建武中興(けんむのちゅうこう)までの公家(くげ)政治に九つの変化を、源頼朝(よりとも)以後家康までの武家政治に五つの変化を認めて、有名な「九変五変観」をたてたのが特色。北畠親房(きたばたけちかふさ)の『神皇正統記(じんのうしょうとうき)』や林家(りんけ)の『日本王代一覧(にほんおうだいいちらん)』『本朝通鑑(ほんちょうつがん)』、師の木下順庵(きのしたじゅんあん)の説を大幅に取り入れ、「変」については慈円(じえん)の『愚管抄』や『日本王代一覧』などから示唆を得たようであるけれども、随所に独創的見解を示している。明治になるや「破天荒」の史観といわれ、「明治以前唯一の政治史」と絶賛された。武家政治出現の必然性と徳川政権の正当性とを論証した手際は鮮やかであるが、徳川びいきに陥った短所もある。単に過去を論ずるだけでなく、当時の幕府政治に対し改善の方途をも示唆的に述べている点で林家史学と一線を画する。江戸時代後期から広く一般に読まれるようになり刊行もされて、明治時代には教科書的存在にまでなった。『新井白石全集 第3巻』『日本思想大系 35 新井白石』などに所収。
[宮崎道生]
『村岡典嗣校訂『読史余論』(岩波文庫)』
摂関政治の開始から徳川家康制覇に至る政権の変遷経過を論じた史書。新井白石著。3巻。858年(天安2)藤原良房が清和天皇の摂政となったのを〈本朝天下の大勢〉の第一変とし,1336年(延元1・建武3)南北朝分立による〈武家の代〉確立に至る間に九変を画して巻一とし,巻二~三では源頼朝の開府を第一変とし,徳川政権に至る〈武家の代〉に五変を置く。徳川氏制覇の必然性を跡づけた史論であるが,〈九変,五変〉の時代区分と,その変遷をもたらした事件や人物の行動についての論評に,白石独自の歴史観が表れている点で,近代以前の代表的史書の一つに数えられる。本書は1712年(正徳2)将軍家宣へ講じた草稿を門弟土肥新川が写し,さらにそれを白石の次男宜卿らが転写し,23年(享保8)完成したという。《新井白石全集》,岩波文庫,《日本思想大系》などに収載されている。
執筆者:辻 達也
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和文・編年体の歴史書。3巻。新井白石著。1712年(正徳2)成立。白石が6代将軍徳川家宣に行った日本史の講義の副産物で,文徳天皇の時代から徳川氏の創業期までを扱う。儒教の有徳者君主思想と応報思想にもとづき,公家の時代の歴史変革を「九変」,武家の時代の変化を「五変」と段階論的にとらえ,武家政治・徳川政権成立の必然性と正統性を明らかにする。北畠親房「神皇正統記」や林鵞峰「日本王代一覧」など,先行する歴史書に負うところも多く,また頼山陽「日本外史」など後世の歴史書への影響も大きい。「岩波文庫」「新井白石全集」「日本思想大系」所収。
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