合い（読み）あい

精選版 日本国語大辞典

あいあひ【間・合】

1. 〘 名詞 〙
2. [ 一 ] 人、物、事柄などについて、二つのものの間をいう。
   1. ① 物と物との間。あわい。ま。
      1. [初出の実例]「この鹿の目のあひの、例の鹿の目のあはひよりも近くて」(出典：宇治拾遺物語（1221頃）一)
      2. 「樹木がいい加減に合ひを置いて生えてゐる地上には」(出典：断橋（1911）〈岩野泡鳴〉一〇)
   2. ② 人と人との間柄。関係。仲。
      1. [初出の実例]「フタリノ aiga(アイガ) ワルウ ゴザル」(出典：日葡辞書（1603‐04）)
   3. ③ 酒杯のやりとりの際、二人の間にはいって第三者が代わりに杯を受けて酒席の興をたすけること。近世、遊里で発生した酒杯献酬の作法。
      1. [初出の実例]「かへすもかたきとて、あひをなどとて人出る事あるべし」(出典：評判記・秘伝書（1655頃）しょたいめんの名をしる事)
   4. ④ 「あいのしゅく（間宿）」の略。
      1. [初出の実例]「間(アヒ)の土山雨が降る」(出典：歌謡・落葉集（1704）四)
   5. ⑤ 「あいのて（間手）」の略。
      1. [初出の実例]「ふきがらをけしてくんなと間(あイ)をひき」(出典：雑俳・柳多留‐九（1774）)
   6. ⑥ 人形浄瑠璃で、太夫が語る文句と文句とのあいだを三味線だけでつなぐ演奏。短い旋律で、おもに文意を助けて印象を深める場合をいい、逆に人形の動作を助け舞台効果をあげる演奏を「めりやす」という。
   7. ⑦ 「あいきょうげん（間狂言）」の略。
   8. ⑧ 「あいがたり（間語）」の略。
      1. [初出の実例]「Aiuo(アイヲ) ユウ、または、ノウ aiuo(アイヲ) ユウ」(出典：日葡辞書（1603‐04）)
   9. ⑨ 「あいごま（合駒）」の略。
      1. [初出の実例]「さる程に金をあひにはるかと見れは歩兵をはる」(出典：寒川入道筆記（1613頃）愚痴文盲者口状之事)
   10. ⑩ 「あいのもの（間物）」の略。
       1. [初出の実例]「あひの物。あひ」(出典：大上臈御名之事（１６Ｃ前か）)
3. [ 二 ] 時間について、時と時との間や、ある定まった時期、刻限をいう。
   1. ① ふだん。平日。平常。
      1. [初出の実例]「とし玉に酒一升おくれ。あいは頼まぬ」(出典：咄本・新板一口ばなし（1839）八)
   2. ② とき。折。機会。場合。
      1. [初出の実例]「又都のわけをつとめたる女も、あひには此ところに来ぬれば」(出典：仮名草子・都風俗鑑（1681）四)
   3. ③ 客に出ている遊女が、都合をつけて他の客の座敷に出ること。
      1. [初出の実例]「三更過迄遊んでも、いのふともいはぬは、さてもながい間(アイ)なり」(出典：洒落本・戯言浮世瓢箪（1797）四)
   4. ④ 二か月間（六〇日間）のことをいう上方語。
      1. [初出の実例]「節季より節季の間を一間(ひとあへ)と唱ふ、あいと斗も云」(出典：浪花聞書（1819頃）)
   5. ⑤ 寒暑の間の移り変わりの時季。主として衣服についていう。
      1. [初出の実例]「幅広のズボンの紺の服、同じ色の合(アヒ)の外套」(出典：浅草日記（1930）〈川端康成〉)

あいあひ【合・会・相】

1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 ( 動詞「あう（合）」の連用形の名詞化 ) あうこと。また、動作を共にしたり、相互に関係をもったりする意を表わす。
   1. [ 一 ] あうこと。会合。対面。
      1. [初出の実例]「夢(いめ)の相(あひ)は苦しかりけり覚(おどろ)きてかきさぐれども手にも触れねば」(出典：万葉集（８Ｃ後）四・七四一)
   2. [ 二 ] 人と行動を共にしたり、相手をしたりすること。
      1. ① 二人で向かい合って、互いに声をかけながら槌(つち)で物を打つこと。あいづち。
         1. [初出の実例]「撃 纂文云斉人以_二大槌_一為_二撃_一。〈漢語抄云阿比〉」(出典：十巻本和名抄（934頃）五)
      2. ② 共謀すること。また、その仲間。同類。ぐる。
         1. [初出の実例]「ムム、扨(さて)はあいじゃの」(出典：浄瑠璃・吉野都女楠（1710頃か）四)
      3. ③ 相手。また、相手をすること。
         1. [初出の実例]「ハテ、あいには愚僧が行かいでたまる物か」(出典：歌舞伎・韓人漢文手管始（唐人殺し）（1789）四)
      4. ④ あいこ。あいうち。
2. [ 2 ] 〘 接頭語 〙
   1. [ 一 ] 動詞の上に付く。
      1. ① ともに関係することを表わす。
         1. (イ) ともに。ともどもに。いっしょに。
            1. [初出の実例]「道の後(しり)古波陀嬢子(こはだをとめ)を神の如(ごと)聞えしかども阿比(アヒ)枕まく」(出典：古事記（712）中・歌謡)
            2. 「今すこし若くおはす時(とき)人をも相語らひ給へ」(出典：米沢本沙石集（1283）四)
         2. (ロ) 向かい合った関係にあるさま。互いに。
            1. [初出の実例]「肝(きも)向かふ 心をだにか 阿比(アヒ)思はずあらむ」(出典：古事記（712）下・歌謡)
      2. ② 語調を整えたり、語勢を添えたりする。改まった言い方として、近代では手紙などに用いる。
         1. [初出の実例]「小野に侍りつる尼どもあひ訪(と)ひ侍らんとてまかり寄りたりしに」(出典：源氏物語（1001‐14頃）手習)
         2. 「脚気症に相(アイ)罹(かか)り、起臥共に、頗(すこぶる)困難を覚候故」(出典：当世書生気質（1885‐86）〈坪内逍遙〉三)
   2. [ 二 ] 名詞の上に付く。
      1. ① 同じ関係にある間柄。「相弟子」「相番」など。
      2. ② 互いに向かい合った関係。「相対」「相たがい」「相四つ」など。
3. [ 3 ] 〘 造語要素 〙 ( 名詞に付いて接尾語的に ) 前後の事情や関連における、もののありかた。「意味合い」「色合い」「頃合い」など。

合いの補助注記

接頭語として動詞に接する場合、次のように間に助詞を伴うことがある。「正月たつ春のはじめにかくしつつ安比(アヒ)し笑みてば時じけめやも」〔万葉‐四一三七〕、「大和なる耳無山の山彦は呼べどもさらにあひも答へず」〔多武峰少将物語〕。

あわいあはひ【間・合】

1. 〘 名詞 〙 ( 動詞「あふ（合）」に接尾語「ふ」の付いた「あはふ」の名詞化か )
2. ① 物と物との交わったところ。重なったところ。また、境目のところ。中間。間。
   1. [初出の実例]「伊勢、尾張のあはひの海づらを行くに」(出典：伊勢物語（１０Ｃ前）七)
   2. 「几帳どもの立てちがへたるあはひより見通されて」(出典：源氏物語（1001‐14頃）蜻蛉)
   3. 「夢と現(うつつ)とのあはひの帷(とばり)を愛惜しつつ」(出典：普賢（1936）〈石川淳〉八)
3. ② 人と人との間柄。相互の関係。交際。仲。
   1. [初出の実例]「若き御心どちなれば、年頃見ならひ給へる御あはひを」(出典：源氏物語（1001‐14頃）乙女)
   2. 「将軍と執事とのあはいを次第に隔てんと」(出典：太平記（１４Ｃ後）二九)
4. ③ 色の取り合わせ、調和。配色。
   1. [初出の実例]「濃き衣(きぬ)に、紅梅の織物など、あはひをかしう着かへて居給へり」(出典：源氏物語（1001‐14頃）浮舟)
5. ④ 機会。折。
   1. [初出の実例]「いくさといふ物は〈略〉あはひ悪しければ引くは常の習(ならひ)なり」(出典：平家物語（１３Ｃ前）一一)
6. ⑤ あいだの距離。また、物のすきま。空間的にいう場合が多いが、時間的な間隔にもいう。
   1. [初出の実例]「猶扇のあはひ七段ばかりはあるらんとこそ見えたりけれ」(出典：平家物語（１３Ｃ前）一一)
   2. 「間(アハヒ)両三日を置きて、門を出づること稀なる川島未亡人の尨大なる体は、飯田町なる加藤家の門を入りたり」(出典：不如帰（1898‐99）〈徳富蘆花〉中)

合いの語誌

( 1 )平安時代、「あひだ」は和文には例が必ずしも多くはなく、時間的用法が主であるのに対し、「あはひ」は和文に多用され、空間的用法が中心となる。
( 2 )鎌倉時代になると、「機会」「折」などという漠然とした時間をさす例が現われる。

出典　精選版 日本国語大辞典