合意制度(読み)ゴウイセイド

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

合意制度
ごういせいど

検察官は、被疑者または被告人が他人の刑事事件の捜査および公判に協力することを約束すれば、被疑者または被告人に一定の恩典を与えることを内容とする合意をすることができる、とする制度である。2016年(平成28)の刑事訴訟法改正により、取調べによらない供述証拠の収集方法の一つとして導入された。これにより、とくに組織犯罪の解明につき重要な供述を、取調べによることなく獲得することができることになる。合意制度は、日本に新たに導入される制度であることから、この制度が対象とする犯罪は、事案解明の必要性が高く、かつ、被害者をはじめとする国民の理解も得られやすい特定犯罪に限定することとされた。具体的には、詐欺等の刑法犯、独占禁止法違反等の財政経済関係犯罪、覚せい剤取締法違反や銃砲刀剣類所持等取締法違反等の薬物銃器犯罪等である(刑事訴訟法350条の2第2項)。ただし、死刑または無期の懲役もしくは禁錮にあたる罪は除外される(同法350条の2第2項柱書き)。
 検察官は、必要と認めるときは、被疑者または被告人との間で以下の内容について合意することができる(同法350条の2第1項)。すなわち、特定犯罪に係る事件の被疑者または被告人が、特定犯罪に係る他人の刑事事件について、(1)取調べに際して真実の供述をすること、(2)証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること、および(3)証拠の提出その他必要な協力をすること、のいずれかの行為をすることを約束する場合には、検察官は、その行為により得られる証拠の重要性、関係する犯罪の軽重および情状、当該関係する犯罪の関連性の程度その他の事情を考慮して、被疑者または被告人の事件について、(1)公訴を提起しないこと、(2)公訴を取り消すこと、(3)特定の訴因および罰条により公訴を提起し、またはこれを維持すること、(4)特定の訴因もしくは罰条の追加もしくは撤回または特定の訴因もしくは罰条への変更を請求すること、(5)論告において被告人に特定の刑を科すべき旨の意見を陳述すること、(6)即決裁判手続の申立てをすること、および(7)略式命令の請求をすること、のいずれかの行為をすることを内容とする合意をすることができる。
 合意のために必要な協議の主体は、検察官、被疑者または被告人および弁護人である(同法350条の4)。この場合、検察官は、被疑者または被告人および弁護人に異議がないときは、協議の一部を弁護人のみと行うことができる(同法350条の4但書)。その反対解釈として、検察官は、被疑者または被告人のみと協議をすることは許されない。検察官は、協議において、被疑者または被告人に対し、他人の刑事事件について供述を求めることができる(同法350条の5第1項第1文)。これを聴取手続とよぶ。この聴取手続は弁護人が同席する協議手続の一部であって、被疑者または被告人の取調べ手続とは異なる。ただし、聴取手続においても黙秘権の告知が必要となる(同法350条の5第1項第2文)。この場合、合意が成立するに至らなかったときは、聴取された被疑者または被告人の供述を証拠とすることはできない(同法350条の5第2項)。なお、検察官は、司法警察員が送致した事件について協議を行うときは、あらかじめ司法警察員と協議しなければならない(同法350条の6第1項)。また、検察官は、捜査のため必要と認めるときは、当該協議における必要な行為を司法警察員にさせることができる(同法350条の6第2項)。
 合意が成立した場合には、その内容を明らかにする検察官、被疑者または被告人および弁護人が連署した合意内容書面が作成される(同法350条の3第2項)。検察官は、合意をした被疑者の事件についての公判において、および他人の刑事事件の公判において、合意内容書面の取調べを請求しなければならない(同法350条の7第1項、350条の8、350条の9)。
 合意には、一定の拘束力が付与されており、理由なく合意内容を履行しないことは違法となる。たとえば、検察官が不起訴合意に違反して起訴した場合には公訴棄却となる(同法350条の13)。他方、被疑者または被告人が合意に反して虚偽の供述等をした場合は処罰の対象となる(同法350条の15)。
 合意の履行義務に対し、当事者が合意から離脱できる場合があり、(1)合意の当事者が合意に違反した場合、その相手方は合意から離脱することができ、(2)検察官が合意に基づいた求刑をしたものの裁判所がこれより重い刑を言い渡した場合、検察官は合意から離脱することができ、(3)被疑者または被告人の供述内容が真実でないことが明らかになった場合等も、検察官は合意から離脱することができる(同法350条の10第1項)。なお、検察官が合意に基づいて公訴を提起しない処分をした事件について、検察審査会が起訴議決を行った場合には、当該合意はその効力を失う(同法350条の11、350条の12)。[田口守一]

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