大和国(奈良県)吉野郡の吉野川上流地帯を主産地とする杉。奥地の川上郷に代表されるこの地方一帯は,杉の造林に好適な立地条件に恵まれていたため植林の歴史は古い。大和の三輪山,春日山に生育する神代杉の苗木を移植したのは文亀年間(1501-04)と伝えられ,江戸時代中期には屋久島の杉種を移入して品種の改良を図ったとされている。そのころから吉野杉の声価は一段と高まり,現地でのすぐれた杉の植栽法は独特な運材技術とともに広範囲に普及した。一方,吉野川を運材ルートとして,河口の和歌山港へ流送される杉材のほとんどは,同港から海路大坂市場へ直送された。遠隔地からの海上輸送材とは比較にならない低運賃で吉野材が商品化されたことは,杉を主材とする吉野林業の発展に寄与するところ多大であった。市場向け杉材では畿内酒造地への樽丸(酒樽用材)がとくに多く,少なくとも明治時代までの樽丸は吉野杉に限られるほどの声価を保持した。
執筆者:所 三男
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…これらの品種は,生育地のさまざまな集団の中から,永い年代にわたる林業家の努力によって,あるいは実生で,あるいは挿木や伏条性利用の無性繁殖によって,選び出されてできたものが多い。実生系では,米代川流域の秋田杉,富山県立山の立山杉,吉野林業の吉野杉,高知県の魚梁瀬杉,屋久杉などが有名である。吉野杉は,鮮紅色で木理の通った材が柱や樽丸に適して有名となり,全国各地に植えられた。…
※「吉野杉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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