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1885年(明治18)2月、当時まだ大学予備門の生徒だった尾崎紅葉(こうよう)、山田美妙(びみょう)、石橋思案(しあん)らが創立した文学結社。「硯」は文筆にちなんだもの。最初は彼らのほか高等商業在学中の丸岡九華(きゅうか)らを加えた広義の文学愛好グループにすぎず、同年5月機関誌『我楽多(がらくた)文庫』を創刊したが、紅葉と美妙とが手分けして筆写回覧する小雑誌で、内容も小説、新体詩などのほか、狂句、都々逸(どどいつ)、落語、謎(なぞ)などまで掲載するような趣味的なものだった。しかし、しだいに同人が増え、86年11月から活版非売、さらに88年5月から公売となった。このころから同人は新文学の樹立を志し、結束を固めて文壇に打って出た。当時の同人には、前記紅葉らのほか、巌谷小波(いわやさざなみ)、川上眉山(びざん)、広津柳浪(りゅうろう)、江見水蔭(すいいん)、大橋乙羽(おとわ)らがあり、美妙はこの年離脱した。89年から「新著百種」の刊行が始まり、紅葉をはじめ各同人が執筆、文壇にその地歩を固め、「文壇の梁山泊(りょうざんぱく)」(坪内逍遙(しょうよう))と目された。
以後、紅葉の入社していた『読売新聞』をはじめ、博文館、春陽堂などのジャーナリズムを支配し、明治20~30年代の文壇を制覇した。他方、同人間の親交は厚く、しばしば旅行、文士劇、文士講談などを催し、各種会合なども頻繁に行われた。しかし、20年代末から眉山らが疎遠となり、小波の洋行、水蔭の西下などが相次ぎ、やがて1903年(明治36)10月、紅葉の死によって、その結束も解体したとみられよう。
[岡 保生]
『『明治文学全集22 硯友社文学集』(1969・筑摩書房)』▽『福田清人著『硯友社の文学運動』(1933・山海堂)』▽『伊狩章著『硯友社の文学』(1961・塙書房)』
明治中期の文学結社。1885年(明治18)2月,東京大学予備門在学中の尾崎紅葉,山田美妙(びみよう),石橋思案(1867-1927)らが高等商業生徒の丸岡九華(きゆうか)らをかたらい創立した。同年5月から機関誌《我楽多(がらくた)文庫》を創刊,小説,漢詩,戯文,狂歌,川柳,都々逸(どどいつ)など,さまざまな作品を載せた。はじめ紅葉,美妙が筆写した回覧雑誌だったが,のち印刷し,さらに公売へと,部数も増加した。同人には,ほかに川上眉山,巌谷小波(さざなみ),江見水蔭,大橋乙羽(おとわ),広津柳浪らが加わった。初期には文芸を楽しむ遊戯気分が強く,その制作も近世の戯作調が濃厚だったが,しだいに新文学の創造に意欲的となり,美妙らの口語文体の実験につぎ,紅葉を中心に近代的な写実主義小説を相次いで文壇に送り,明治20年代を制覇した。いっぽう友情のあつい同人は紅葉を中心として結束し,文士劇や文士講談などもこころみた。1903年紅葉の死後,文壇での役割も失われ,いつしか解消した。
執筆者:岡 保生
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明治期の文学結社。1885年(明治18)大学予備門の尾崎紅葉・山田美妙・石橋思案,一橋高等商業の丸岡九華は回覧雑誌「我楽多(がらくた)文庫」発刊を決め,社名を硯友社とした。活版非売本・発売本,改名して「文庫」と変遷しながら89年の終刊までに43冊をだした。この間,川上眉山・広津柳浪・江見水蔭・大橋乙羽らが参加。美妙の脱退後「新著百種」の企画が成功し,90年代には文壇の中心勢力となる。紅葉門下に泉鏡花・小栗風葉・徳田秋声・柳川春葉らが結集。日清戦争後に深刻小説(悲惨小説)・観念小説をうんだが,1903年の紅葉の死を境に自然消滅した。趣味的文学観から出発し,西鶴模倣をへて写実主義へ発展した風俗小説といえるが,次代の文学を準備した功績は大きい。
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…素劇(そげき)ともいう。1890年(明治23)東京小石川の佐藤黄鶴邸で,尾崎紅葉,江見水蔭(えみすいいん)(1870‐1934),巌谷小波(いわやさざなみ)らが,水蔭作の史劇を上演した硯友社(けんゆうしや)劇が最初。1905年には歌舞伎座で,杉贋阿弥(がんあみ),岡鬼太郎,岡本綺堂,小出緑水,岡村柿紅,伊坂梅雪,栗島狭衣(さごろも)らが〈若葉会〉を組織して上演し,世評を招いた。…
※「硯友社」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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