改訂新版 世界大百科事典 「名塩紙」の意味・わかりやすい解説
名塩紙 (なじおがみ)
代表的な雁皮紙(がんぴし)産地,摂津国有馬郡名塩(現,西宮市塩瀬町)ですかれる紙。ここでは越前紙と同様に,江戸初期から一貫して雁皮紙をすいて,現在に至っている。越前ではほかに越前奉書などの楮紙(こうぞがみ)もすくが,名塩は雁皮紙のみをすきつづけてきたところに大きな特色をもつ。江戸時代以前の起源は不明だが,伝説によると,東山弥右衛門が越前に行き,製紙家の婿養子となり,製紙の技を修得した後,妻子を置き去って名塩に帰り,製紙を始めたのが最初という。この伝説に取材した水上勉の小説《名塩川》によって広く知られるようになった。江戸時代の名塩紙は大別すると間似合紙(まにあいがみ)と鳥の子紙に分かれる。越前紙が内曇(うちぐもり),水玉,漉(す)き模様紙など技巧的な装飾に特色があるのに対し,名塩紙は〈粉入り(泥入り)〉と称して,地元特産の石粉を混入してすくのが特色である。この石粉は数百年も掘りつづけられたという洞窟から掘り出された岩石の粉を何回も水簸(すいひ)したもので,白色の東久保土(とくぼつち),薄茶色の蛇豆土(じやがめつち),卵色の尼子土(あまこつち),青色のカブタ土などの種類がある。これを混入することで,虫害を防ぎ,耐火性を与え,紙の伸縮が少なくなり,紙肌やつやに独自のものが出て,変色を防止するなどの効用を生む。現在も,この土を混入した雁皮の箔打紙(はくうちがみ)を数軒がすいて,金沢の箔打業界に送っている。金箔の仕上がりを大きく左右するのは,この箔打紙である。
執筆者:柳橋 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報