楮紙(読み)ちょし

精選版 日本国語大辞典 「楮紙」の意味・読み・例文・類語

ちょ‐し【楮紙】

〘名〙 楮(こうぞ)を原料とした紙。

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デジタル大辞泉 「楮紙」の意味・読み・例文・類語

こうぞ‐がみ〔かうぞ‐〕【×楮紙】

コウゾ靭皮じんぴの繊維を原料としていた紙。最も代表的な和紙で、檀紙だんし奉書杉原紙など種類も多く、書物・障子・傘などさまざまに用いられる。榖紙こくし

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改訂新版 世界大百科事典 「楮紙」の意味・わかりやすい解説

楮紙 (こうぞがみ)

コウゾを原料とする紙で,古代から現代にいたるまで,一貫して代表的な和紙であった。古代には榖紙(こくし)と呼ばれ,現代においても梶紙(かじがみ)(構紙・加地紙)などの別名をもつ。原料のコウゾはクワ科に属する落葉低木で,日本に自生し,豊富にあったので,古代において太布(たふ)や栲(たえ)などの織物に用いられていた。コウゾは各地の風土によって特色を異にし,また同一産地でも種類が多い。コウゾBroussonetia kazinokiとカジノキB.papyrifera製紙原料としての区別については議論があるが,実際上の違いは明確ではない。

元来は高木であるコウゾの栽培は,クワと同様に株(棍棒状に刈り込む)に仕立てて,毎年伸びる一年生の枝木を,秋の落葉時に全部刈り取る。これを蒸して,樹皮をはぎ取り,黒い表皮をそいで除き,乾燥して貯蔵する。樹皮の木心部に近い部分に多量に含まれている靱皮(じんぴ)繊維が紙の原料となる。製紙工程の煮熟の際,煮えた樹皮を広げると綾状に繊維束が分かれるのが見られる。さらに槌でたたくなどの叩解(こうかい)作業を行うと,繊維が1本ずつ分離して,紙料ができ上がる。コウゾの靱皮繊維は,長さ5~20mmほどで,強靱で絡みやすいので,薄くとも容易に破れないじょうぶな紙ができる。コウゾの年生産額は約400t(黒皮換算)程度といわれるが,その半分ほどを高知県で産し(土佐楮),ほかに茨城(那須楮)・島根(石州楮)・長野・福岡県などが多く,それぞれ優れた特色をもっている。土佐楮は種類が多く,その区別も厳密で,剝皮(はくひ)・水洗・晒(さらし)などの原料処理もていねいに行われている。土佐楮の原料には,コウゾに分類されるアカソ・アオソ,カジノキに属するタオリ・カナメ・クロカジが用いられる。アカソは繊維が細くて長く,じょうぶで光沢があり,繊維のからまり(結束,くくりともいう)が生じない優秀な原料で,ごく薄い典具帖紙(てんぐじようし)や清帳紙(せいちようし)など上等な紙に用いられる(土佐紙)。一方,タオリは繊維が太くて粗いので,じょうぶさが求められる提灯紙や傘紙などに用いられた。石州楮は島根県南部の旧那賀・旧美濃両郡と鹿足郡で産し,繊維が細くて長く,光沢があり,地元ですく石州半紙に用いられる。とくに石州半紙では樹皮の緑色の甘皮部分まで原料とするので,それらが長い繊維の絡んだ空隙を充てんし,紙色はやや黒くなるがきわめて強靱な紙となる。那須楮は茨城県北部の久慈郡大子町を中心とした久慈川流域で産出され,繊維は比較的細くて短く,繊細であるため,それを原料とした紙は温かみのある緻密(ちみつ)な紙肌となる。那須楮を使う紙は地元の西の内紙,程村紙(ほどむらがみ)のほか,越前奉書や本美濃紙(ほんみのし)などがある。本来,越前奉書は地元のコウゾや加賀楮,本美濃紙は津保草(つぼくさ)と呼ばれる地元のコウゾを使っていたものだが,現在は絶えてしまったので,よく似た性質の那須楮で代用している。その他,細川紙(埼玉県)は地元に近い群馬楮を使って,黄色みの濃い,光沢のある楮紙となるのが本来の姿であった。また東北地方や九州南部に多い,冬の農閑期にすく副業の製紙家は,地元のコウゾを使う場合が多い。以上のようにして,多種多様の特色をもつ各地のコウゾが多様な楮紙を生み,ひいては和紙の内容を豊富なものにしている。

古代の和紙の代表的な紙は,楮紙・雁皮紙(がんぴし)・麻紙(まし)の3種であり,とくに麻紙は最も尊いとされたが,正倉院に残る和紙の調査によると,麻紙と称される紙にも楮紙が多いといわれる。また,当時はコウゾとガンピを混合して用いる場合が多かった。麻紙は原料処理の困難などの理由で平安時代に姿を消した。またガンピは栽培ができないため生産に限界があり,雁皮紙は少数の特定の産地で専門的にすかれるようになる。それに対しコウゾの繊維は1cm前後の長さにそろっていて紙になりやすい。また栽培もきわめて容易で,生産を飛躍的に拡大することができた。コウゾの栽培はもっぱら山地の急斜面や田畑の畔や土手などで行われる。したがって,ほかに農耕が不可能な恵まれない土地でも,コウゾの栽培と紙すきだけは可能であったため,広く楮紙の生産が普及した。このように楮紙は和紙の主体となったため,その種類や紙名はおびただしい数となるが,平安時代の貴族社会は檀紙(だんし),中世武士僧侶の社会では杉原紙(すぎはらがみ),近世の幕藩社会では奉書紙(ほうしよがみ)が,それぞれ代表的な紙であった。これらの紙は最上級の公文書や,詩歌などを記す書写材料などに用いられたが,薄くてじょうぶで美しい楮紙は,それ以外によくもんで紙子として着たり,障子紙や襖(ふすま)紙などとして建築材料となったり,提灯紙・傘紙・うちわ・扇子の紙などの日常品としても多方面で用いられるようになった。とくに江戸時代以後の近世・近代において,用途が多様化するにつれ,生産量も多くなった。明治維新以後も手すきの製紙は発展し,1901年ころに最盛期を迎え,紙すき戸数は約7万戸を数えた。その当時,新興の三椏(みつまた)紙の生産も発展したが,大多数はやはり楮紙がすかれていた。以後,洋紙や機械すき和紙の発達で手すきは減少の一途をたどるが,第2次大戦以前で楮紙の半数ほどが障子紙に用いられていた。戦後,機械すきの障子紙の進出でそれもやみ,傘紙・提灯紙なども生活様式が変わって昭和30年代から40年代にかけて急速に姿を消した。現在,本美濃紙・内山書院紙(長野県飯山市・野沢温泉村・栄村)のような高級障子紙(書院紙)のほか,各種の表具用紙(宇陀紙(うだがみ)・美栖紙(みすがみ)など)・下貼り紙・型紙用紙・民芸紙・和紙人形や張絵に用いる紙など,楮紙の強靱性を生かした各種の用途に細かく分かれるが,全体量が減少するにつれ,しだいに純楮による書道用紙,版画用紙,日本画などの画材用紙など,本来の第一義的な用途である書写材料の占める割合が増える傾向を示している。
和紙
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図書館情報学用語辞典 第5版 「楮紙」の解説

楮紙

「こうぞし」と読む.クワ科の植物であるコウゾの靭皮繊維を主原料として漉かれた和紙.繊維が長く,強靭なため,漉かれた紙は丈夫で,記録用紙としてだけでなく多用途に用いられている.

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普及版 字通 「楮紙」の読み・字形・画数・意味

【楮紙】ちよし

こうぞの紙。

字通「楮」の項目を見る

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「楮紙」の意味・わかりやすい解説

楮紙
ちょし

こうぞ紙

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世界大百科事典(旧版)内の楮紙の言及

【紙】より

…〈カジノキ〉は〈コウゾ〉よりも丈が高く,樹皮は紡いで衣服の材料にもなった。楮紙はまた皮紙と呼ぶことがある。
[需要の拡大]
 後漢から三国魏にかけ蔡侯紙の名は有名であるが,後漢末には製紙の名手として左伯が知られる。…

【榖紙】より

…〈かじがみ〉ともいい,楮紙(こうぞがみ)(〈ちょし〉ともいう)の古名。製紙原料であるクワ科のカジノキBroussonetia papyrifera(榖(かじ),構(かじ)とも)はコウゾB.kazinoki(楮)とは近縁ではあるが別種の植物なので,榖紙と楮紙を区別することもあるが,すきあがった紙はほとんど判別できない。…

【榖紙】より

…〈かじがみ〉ともいい,楮紙(こうぞがみ)(〈ちょし〉ともいう)の古名。製紙原料であるクワ科のカジノキBroussonetia papyrifera(榖(かじ),構(かじ)とも)はコウゾB.kazinoki(楮)とは近縁ではあるが別種の植物なので,榖紙と楮紙を区別することもあるが,すきあがった紙はほとんど判別できない。…

※「楮紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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