検地帳に名前を登載されている農民のこと。検地によって田畑,屋敷地の所持者として領主に認定され,その田畑,屋敷地にかかる年貢,諸役を負担する責務を請け負っていた。検地帳には田畑,屋敷地1筆ごとに,その場所名,田畑・屋敷の別とその品位,面積,分米,人物の名が記載されているが,その人物が名請人である。このように検地帳に田畑,屋敷地が登録されることを,農民の側からは高請,竿請などといい,名前が登録されることを名請といったが,領主の側からすれば検地帳への書載,書付,名付などといった。1596年(慶長1)石田三成が近江国浅井郡の村々に出した掟条々に〈此さき御検地の時けんち帳にかきのり申候もの〉と名請人を表現しており,1603年池田輝政が播磨国で出した掟条々では〈検地帳に付候出作之者〉と出作名請人を表現している。〈名請〉の用例としては29年(寛永6)近江国箕浦村百姓介若後家の訴状写に〈右之田地之儀者,太閤様御代之御検地,其後大御所様御検地両度共ニ,我等之名請にて只今迄御役仕候〉とあるように,高請,名請というのは年貢負担を請け負うというニュアンスが強い。検地帳に登録された田畑,屋敷地は名請地または高請地といい,その所持者としての名請人は高請人,高請百姓ともいった。1598年上杉景勝が会津へ転封されたときの豊臣秀吉の朱印状に,上杉家の家臣は小者にいたるまで残らず連れて行くこと,ただし田畑を持ち年貢を負担する〈検地帳面之百姓〉はいっさい連れて行くなといっているが,この〈検地帳面之百姓〉が名請人であり高請百姓のことである。そのように領主および家臣団は他へ移動することがあっても,高請百姓は土地に緊縛されて移動できなかった。名請人は土地に対してなんらかの権利と義務を持った人物であり,実態としては中世の検注帳などに見られるが,〈名請〉の用語そのものは近世になって使われるようになったようである。
近世初期には,検地帳に登載された名請人であっても所持石高が少量であり,屋敷地が登録されておらず,しかも検地帳と並ぶもう一つの基本台帳である名寄帳には名前が出てこないような農民もいた。彼らは法的には名請人であっても,実態としては一軒前の百姓として自立した農業経営を行うことが困難な零細農民であった。近世農村では,本百姓といって,田畑,屋敷地を持ち名寄帳にも名前が登載され,領主に対し直接課役を負担する高持百姓が一軒前の百姓として認められ,彼らによって村落が構成されていたから,上記のような零細な名請農民はこれらの本百姓になんらかの形で隷属していた。また検地帳にも登録されない農民がいたが,彼らは〈帳外(ちようはずれ)〉と呼ばれ,屋敷地も耕作権も持たない最も隷属度の高い農民であった。
なお地域によっては,地主の別称として名請人という語を使う場合があった。
執筆者:松尾 寿
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中世以降,土地台帳に登録された者のこと。名請の権利は,用益権・耕作権あるいは土地所持権であり,各時代にそれぞれの権利が名請人にあるとされた。江戸時代には,太閤検地以降の検地によって,単一の権利が名請人に保障されるようになった。分付記載のような例はあるものの,一地一作人の原則により,名請人が耕作者であり,年貢・諸役の負担者であった。明治期には地租改正により,名請人の権利は所有権となった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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…形式には,さまざまなものがあるが,太閤検地の検地帳の形式が統一されるのは文禄検地であり,幕府検地の検地帳が統一的な形式に整えられるのは寛文・延宝検地である。検地帳の標準的な記載形式(文禄検地,寛文・延宝検地以後の幕府検地)では,1村単位で検地結果をとりまとめ,1村の石盛(こくもり)を定め,村内の田・畑・屋敷について1筆ごとに田畑所在地名(字名),地目(田,畑,屋敷),品位(上・中・下・下々),面積,石高,名請人(なうけにん)を記し,最後にそれを総計して村高を記載する。さらに,屋敷四壁,山林,池,沼沢,荒地などを記載したり,〈甲分・乙作〉〈甲家抱・乙作〉という分付形式で村落内部の階層関係が記帳されることもある。…
…しかし近世の地主は,歴史的には被支配者たちの土地所持をいい,近世社会において再生産の支柱を担った農民の土地所持者を意味する。つまり近世の地主は,土地制度の根幹である幕藩領主の検地によって把握された農民であり,検地帳に登録された名請人(なうけにん)にほかならない。また,地主には小作人に対する対概念の意味もある。…
※「名請人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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