古代,中世において土地の領有者,例えば荘園領主や国司などが領地を支配し,そこから租税を収取するために,まず土地の面積を丈量し,耕地の所在を確認し,請作者すなわち租税負担者などを確定する行為をいう。したがって領地を検注する権利は,領地の支配権と一体をなすものである。また検注は耕地以外に,桑,漆や在家などを対象とし,木の本数や軒数を注進したものもある。古代では検田,中世では検注と称せられる場合が比較的多く,近世では検地と呼ばれるが,基本的な性格はほとんど変わらない。
中世の検注には,目的や方法などにより正(しよう)検注,居合(いあい)検注,内(ない)検注などと区別された。正検注は大検注,実検注などとも称せられ,領有地全域を対象として行われ,すべての検注の基本をなし,領有地支配の根底をなした点できわめて重要な意味をもつ。その目的は上記のごとくであるが,そのほかに隠田の摘発,斗代すなわち段当り租税額の増額なども併せ行われた。正検注は元来領主の代替りや,その他必要に応じて施行されるべきであるが,これによって納税の面や接待の面などで多大の損失を被る農民側の拒否のために,実施が困難になる場合が少なくなかった。そこで領主は,現実には検注を行わず,その代り過去の検注の結果をそのまま再確認し,それを継続使用することがあった。これを中世では居合検注などと称した。
検注は領主の領地支配にとってもっとも大事であったので,検注実施には,現地在住の荘官の起用を避け,領主の身辺におり,もっとも信頼するに足りる者をとくに選んで〈検注使〉に任命するのがつねであった。検注使は領主にとって不利益な検注を行わない旨の誓約状を領主に差し出して,現地に下向した。いま中世における検注の実情を,1331年(元徳3)の高山寺領美濃国小木曾(おぎそ)荘における記録によって叙述してみよう。このとき京都から小木曾荘に下向した検注使一行は検注使以下20人,馬4頭という数であった。現地の荘官は荘域外に一行を迎え,〈坂迎え〉と称する宴を設けて旅の労苦をねぎらった後,荘内に案内した。彼らは27日間滞在して検注を行ったが,最初の3日間は〈三日厨(みつかくりや)〉と称して盛大な供宴が行われ,その後は〈平厨〉と称する普通の供応が行われた。〈三日厨〉〈平厨〉の27日間の主食料,酒肴料,薪料,飼馬料,検注使滞在のための仮屋建設費など,雑多な経費の総額は銭63貫文余に及び,それらはすべて荘官をはじめ荘園住民の負担であった。他の荘園における検注の実情も,およそ同様であったと推測される。実検の結果がまとめられる検注帳が,しばしば〈馬上帳〉と名づけられ,また検注することを,〈馬の鼻を向ける〉と記した史料が,鎌倉時代にも室町時代にも発見される。このことは,検注遂行に馬の果たす役割がいかに大きかったかを物語るものであろう。馬は騎乗・運搬のためばかりでなく,検注使が耕地の全貌を視察するために,馬背を利用したこともあったであろう。また丈量技術の面からみると,曲尺(かねじやく)を基準とした検地尺や竿および縄などが使用されたことを示す史料がある。
検注の丈量を厳格に実施すると,必然的にいわゆる〈縄延び〉が出てきて,耕地面積が数字的に拡大するのがつねである。その拡大分を一般に〈出田(しゆつでん)〉と称した。これに関連して問題となるのは〈隠田〉である。隠田は従来の検注帳の面には記載されておらず,農民がひそかに開墾し無年貢で耕作してきた土地である。地方によっては〈ほまち田〉などとも呼ばれている。検注の目的の重要なものの一つに,実はこの隠田を摘発し,検注帳の上に記載し,租税を取ることがあった。摘発された隠田は没収され,農民は追放される慣習があった。農民らは検注使に働きかけ,隠田を見のがしてもらう努力をした。かような見のがしを〈田を伏せる〉と称し,それに対する謝礼を〈伏料〉〈勘料〉などと呼んだ。高野山領紀伊国阿氐河(あてがわ)荘上村百姓らの建治1年(1275)10月28日言上状には,高野山の検注に際し,領主ばかりでなく,本来検注権をもたない地頭が,年に2回も多額の勘料を賦課する非法を農民が訴えている。かような勘料はその意味が拡大され,検注の際の各種の手数料として,領主に納付される場合も生ずるようになった。さらに租税の増収をつねに希望する領主にとって,検注は絶好の機会であった。鎌倉時代初期の高野山領備後国大田荘において,段当り税額の引上げが行われたのは,その実例の一つである。
検注は元来〈代一代〉と称して,支配者の代替りに行われるのが普通であり,また検注は支配地全域にわたり,その経費,とくに農民側の負担は莫大で,それらが検注実施の支障となった。そのため検注は数十年に1回実施という例もまれではなかった。上述の居合検注は,その間隙をうめるためのものでもあった。しかしなんらかの不測の事態,例えば災害のような問題が生じたとき,臨時に検注を行う必要がある。そのような検注を鎌倉時代ころから〈内検注〉と称するようになった。荘園的支配が衰退し,農民の勢力が強くなった室町時代になると,農民側から租税減免を目的とする内検注の要求が盛んに出されるようになった。山城の桂川西岸に展開していた東寺領久世荘は,連年桂川のはんらんによる損害を受けたので,水損地のみの内検を東寺に強請し,年貢の軽減を獲得したのは,著名な実例である。
執筆者:宝月 圭吾
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中世の土地調査。田畠のみならず、在家(ざいけ)、漆(うるし)・桑・栗(くり)などの調査をもいう。公領では国司、荘園(しょうえん)では荘園領主が実施する。正式な検注は国司や荘園領主の代替りごとに行われるのが常で、正検(しょうけん)、大(だい)検注などとよばれる。検注使が農民の立会いのもとで1区画ごとに地目(ちもく)、面積、年貢負担者名を確定し、これを書き上げた「検注取帳(とりちょう)」を作成する。取帳を基に寺社や役人などへの給与分を決め、年貢の賦課対象となる面積を確定した「検注目録(もくろく)」を作成する。この取帳・目録は、土地領有権を証明するものとして保管され、次の正検まで訂正することは許されなかった。他方、自然災害により年貢量を変更せざるをえないような場合など、限られた目的のために行われる調査は内検(ないけん)とよばれ、しばしば実施された。内検はその時々の臨時調査であり、正検によって確認された権利関係を変えるものではない。土地測量の方法は、国ごと荘園ごとにまちまちで、杖(つえ)や縄を用いたり、歩幅で測ったり、目算による場合もあった。いずれにしろ実測することはまれで、居合(いあい)検注といって、帳簿上の操作だけですますことが多かった。年貢免除地を承認するかわりに勘料(かんりょう)という認定料が徴収されるが、居合検注でも旧来の権利関係をそのまま承認するかわりとして勘料が徴収された。検注の実施が困難になると、勘料徴収が正検の内実となった。中世には検注が土を汚すことと考えられ、土用(どよう)の間はこれを行わなかった。
[富沢清人]
中世の土地調査。官物免除の対象となる私領の設定や荘園の設立時に行われる立券(りっけん)検注と,領主の代替りなどに際して行われる正(しょう)検注,作柄調査のための内(ない)検注があった。立券検注では,官司・国使・荘官・古老百姓らが現地に臨んで四至(しし)の確定や1筆ごとの田畠の帰属を調査した。1荘全体に実施される正検注は大検注ともよばれ,百姓の参加を前提に土地所有関係や年貢・公事(くじ)の額が決定された。立券検注・正検注ともに,検注作業を通じて荘園制的支配関係を確認する重要な役割を担った。内検注は,天災がひどい場合に年貢減免を目的に荘民から調査が要求されたり,毎年恒常的に行われたり,荘園ごとに多様な形態をとった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…古代では成文化された罰則は見いだしえないが,隠田は没官(もつかん)(没収)されて公廨(くがい)田,職田,口分田に充てられた。中世では,正検注,内検注などの際に隠田の摘発が行われ,隠田の罪科が発覚した場合には隠田者は追放処分を受け,隠田は没収されるのが通法であったと思われる。しかし,そのような措置は荘園領主などにとって必ずしも得策ではなかった。…
…国衙検注または国司検注の略称。古代では,国司は徴税の正確を期するためにしばしば検田使などを派遣し,管国内の公領の面積・税額・名請人(担税者)などの実情を調査させた。…
…荒野などを開墾してできた新しい田地。隠田が領主に申告されていない田地であるのに対して,新田は検注によって領主に把握されている田地である。そして必ずしも新規の開墾地だけでなく,大検注の年に〈年不(ねんふ)〉(その年作付けされていない耕地)だった田地が,新田とされる場合もあった。…
…彼らは田畠などの所在を熟知し,主として土地支配の台帳類の作成などにあたった。一国単位でなされた検田や検畠に際しては,条里坪付に詳しい彼ら図師たちが実際の検注作業を担当した。1158年(保元3)5月の山城国の一国検田では,〈検注図師〉として〈内蔵助元〉などの名がみられる。…
※「検注」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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