古代・中世において,当初は平和裡に売買を行い,相談で値段をとりきめることをいった。一方的に強引に値段をとりきめて売買を強制する強市(ごうし)に対立する言葉で,《類聚三代格》巻十九の延暦17年(798)10月19日付太政官符には〈物賤の時を候し,実に依て官に申せ〉とある。鎌倉期に入っても,《吾妻鏡》貞永元年(1232)12月29日条に〈次和市売買の間,姧謀の輩所々に横行す〉とあるように使用されている。しかししだいに〈和市〉は,市場での売買価格や相場,交換比率を意味する言葉となっていく。すでに鎌倉中期の正嘉元年(1257)8月日の左衛門尉藤原宗氏綿増分注進状(《高野山文書》)に〈代物としては,時の和市に随い,これを進納せしむべし〉とあるように,明らかに相場を意味し,それにもとづく交換比率によって代物を進納することを令している。同様の用例としては〈国のわし七升仕候間,五貫四百九十文にて候〉(《東寺百合文書》年未詳12月24日,中沢元基書状)などがある。《文明本節用集》にも〈和市 ワシ,又糶(ワシ)同,売買定価義也〉とあって,和市は売買価格を定めることを示している。
荘官などの領主層が,押買狼藉を行って市場を乱すことなく,商人との間で平穏裡に和市が定められるよう令されており,荘官の請文にそれが誓われている。ということは,現実にはそれがしばしば履行されなかったことを意味するだろうし,また和市決定そのものにも圧力がなかったとはいえない。しかしそうした問題を別として,一応その時の相場=和市によって決定した価格を交換比率として,貢納物の代物弁済を計算することを〈和市の法〉といった(代銭納)。それには〈国の市〉の和市の価格が参考になる場合が多かった。もちろん,相場の高下にかかわらず,換算率を定めている場合もあり,どちらが有利になるかは時の相場によって違ったから,これが荘官・地頭などと荘園領主との紛争の原因となった。
執筆者:脇田 晴子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中世における米など諸物資の売買価格、相場、あるいは年貢物銭納に際しての換算率のこと。強市(ごうし)、すなわち売買当事者が不合意のまま行われた売買の価格に対する語。当初は売買当事者が合意した売買を意味していたが、12世紀初めの漢和辞書『類聚名義抄(るいじゅみょうぎしょう)』では「アキナヒカフ」と訓じ、単なる売買を意味するようになり、鎌倉~室町時代には、市などにおける年貢物や商品などの売買価格・相場をさすようになった。さらに年貢物の代銭納が活発になる13~14世紀には、米、絹、綿など年貢物を銭貨で換算する際の率を示す事例も多い。中世の和市は、物資の需給関係、使用銭貨の質、商人の価格操作などの諸条件に左右されたが、物によっては季節的、地域的な違いにより生じる価格差が大きく、米など消費物資の和市は、需要の多い京都などの都市で高く、地方では低いのが一般的であった。14~15世紀、荘園(しょうえん)領主は年貢物の銭納和市の不正を防ぐため、荘官を任命するとき、荘官に和市の公正を守るべき旨の誓約を記した起請(きしょう)文の提出を求めるようになった。中世における中央・地方の諸商品和市の安定化、一定化の傾向は、各地域内の、あるいは一国内における一定の価格機構の形成、全国的商品流通展開の方向を示唆する現象といえる。
[佐々木銀弥]
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出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…中国の財政用語。財政に必要な物資の民間からの買上げのことで,和市,市買ともいう。官権による強制を加えないという意味で和の字が冠せられる。…
※「和市」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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