押買(読み)オシガイ

デジタル大辞泉 「押買」の意味・読み・例文・類語

おし‐がい〔‐がひ〕【押(し)買(い)】

[名](スル)売る意志のない者から、むりやりに財物などを買い取ること。また、その人。⇔押し売り。→訪問購入

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精選版 日本国語大辞典 「押買」の意味・読み・例文・類語

おさえ‐がい おさへがひ【押買】

〘名〙
中世、商品買取り方法の一つ。あらかじめ品物を買い占めておき、後日品薄のために価格が騰貴するのを待って売り巨利を得るもの。押し買いとは区別される。
吾妻鏡‐建長六年(1254)一〇月一七日「但至押買并迎買者、可停止也」
② 無理に買い取ること。おしがい。
高野山文書‐文永八年(1271)六月一七日・神野真国猿川三ケ庄々官等連署起請文「一、市抑買事。右、商沽之輩利潤為望、而募権威抑買之条、頗不便事也」

おし‐がい ‥がひ【押買】

〘名〙 買主売主意思に反して、威力で財物などを買い取ること。⇔押し売り
※後日之式条‐仁治三年(1242)正月一五日「一、町押買事 右不上下、一向可止之矣」
御伽草子鴉鷺合戦物語室町中)「押がいし濫妨し、ここかしこの田畠に至て苅田狼藉し」

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改訂新版 世界大百科事典 「押買」の意味・わかりやすい解説

押買 (おしがい)

交換取引で無理強いに不当な値段で買うこと,押売・押買と併称される場合も多い。古代律令法では強市といわれるものが,これに当たる。鎌倉幕府法では,1240年(仁治1),鎌倉中保々奉行の存知すべき条々の一つに,押買事が出ているのを最初として,42年,53年(建長5),54年,84年(弘安7)と数度にわたって取締りの対象となっている。これは権力を笠にきての武士階級の横暴と,等価交換を望む商工業者との矛盾の結節点として,商品経済が発達した鎌倉末期から,中世後期にかけて,法令に多くあらわれるようになる。1271年(文永8),高野山領紀伊国神野真国猿川3ヵ荘の荘官が,神野市場での抑買(押買)を禁止することを起請文で誓っている。関東の宇都宮氏は,83年に制定した家法では,一門や家臣に市々での押買を強く禁じている。

 室町幕府も,1445年(文安2),喧嘩口論とならんで押買狼藉を停止している。戦国大名分国法にも,《結城氏新法度》では,押買以下の乱暴をして討たれたものについては,是非もない旨を令している。1495年(明応4)の《大内氏掟書》では,押買狼藉の禁とならんで,公方買,守護買が禁止されていることから,それが類似のものとみられていたことがわかる。押売・押買とならんで規定されている場合もあるが,押買のみが規定されている場合が多いことから見て,強権をもって上から買い取る場合が,圧倒的に多かったといえよう。

 《日葡辞書》には,〈無理に売り手の意志に反して物を買い取ること〉とある。これを制禁することは,売り手の保護であるから,中世後期に簇生してくる在地の市場法には,必ずといっていいほど,この条項が見られた。市場法のもっとも典型的なものとしてあげられるのは,《武家名目抄》の1510年(永正7)のもので,〈押買狼藉の事〉が,国質所質,喧嘩口論の制禁とならんでいる。そのあとに〈在々所々市町の掟大概かくのごとし〉とされているから,この三つが,市場の秩序維持についての根本的なものであったことがわかる。しかもそれが当時にあって,守られがたかった事情も推しはかられる。

 したがって,後北条氏治下の武蔵・相模の諸市場,今川氏の富士大宮市,徳川家康の三河国小山新市に対する公方人押買の停止,織田信長の近江国金森や加納の楽市場への規定など,大部分の市場法にあらわれている。しかもそれが,楽市を令した市場法に併記される場合が多いことも特色である。都市法というべき,織豊政権の城下町の建設にあたっての定書にも必ず規定されている。信長の安土山下町,蒲生氏郷の日野・松坂,豊臣秀次・京極高次の八幡町,浅野長吉の坂本などである。近世に入っても,押売押買はまだ行われたようで,1716年(享保1)の幕府法令に〈おし売おし買之儀前々より御制禁之処〉とあり,禁制が出ていたことがわかる。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「押買」の解説

押買
おしがい

公方買(くぼうがい)とも。買手が売手の意思に反して,威力で財物などを買いとる行為。対語が押売。1242年(仁治3)1月15日の鎌倉幕府追加法では町での押買が,また「宇都宮家式条」では市での押買が禁止され,室町・戦国期の市の制札にも頻出。売買の平和領域である町・市では禁止された行為だったが,中世~近世初期に広く行われていたとみられる。

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世界大百科事典(旧版)内の押買の言及

【鎌倉[市]】より

…その場所の多くは,下町ともいうべき海寄りの地域であるが,山寄りの地域でも大倉辻など道路の交差点や,化粧坂上など境界部は,商業地域に指定されている。幕府は市場以外で商人から直接に安く買いたたく“迎買(むかえがい)”や,市価より安く強引に買い取る“押買(おしかい)”を取り締まる一方,商人の暴利を規制する物価統制令や高利貸の利息の制限令も出し,発展しつつある商業・金融業を統制しようとつとめていた。しかしどこまで実効をあげたかは疑問である。…

※「押買」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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