精選版 日本国語大辞典 「国有化」の意味・読み・例文・類語
こくゆう‐かコクイウクヮ【国有化】
- 〘 名詞 〙 国内にある財産を、国家へ移転させること。国際法では特に、外国人の財産に対して行なう強制的な移転をいう。
- [初出の実例]「イランの石油国有化を不当と認め」(出典:日本のむこ殿(1955)〈読売新聞社会部〉石油)
私有財産をはじめとする非国有財産を国家の所有と管理に移すこと。国有企業の新規建設は、この意味での国有化ではないが、産業に占める国有企業の比重を高めるという意味での産業国有化に貢献する。国有化の対象となる財産には、土地、地下埋蔵物、森林、河海湖沼のほか、諸産業部門の企業、金融機関なども含まれる。国有化は資本主義的国有化と社会主義的国有化とに大別できる。
[西村可明]
資本主義的国有化は、資本主義のもとで、資本主義体制の発展もしくは維持を目的として行われるものであり、その廃棄と社会主義体制への移行を目的とするものではない。ただし、国有化が、労働者階級をはじめとする広範な国民の要求に基づいて行われる場合、それは資本主義のもとでの経済民主主義の発展としての性格をもつことがありうる。国有化の具体的目的としては、政治的、軍事的、財政的、経済的諸要因などをあげることができる。
政治的・軍事的要請に基づく国有化の例としては、国家統一のための鉄道の国有化、政府の軍事力強化や軍事機密保持のための軍需産業の国有化がある。財政的要因による国有化は、塩の専売事業のように、財政収入の確保を目的とするものである。経済的要請に基づく国有化には次のようなものがある。
(1)後進資本主義国における産業育成のための一時的国有化。この場合、国有企業はのちに民間に払い下げられる。
(2)国家独占資本主義のもとでの「破産企業救済型」の国有化。第二次世界大戦後近年に至るまでイギリスで行われてきた、エネルギー、鉄鋼、造船、自動車などの産業部門における企業の国有化がこれにあたる。
(3)労働者の雇用確保、生活改善、公共性の高い部門の国民本位の発展、企業管理への労働者の参加などを目的とする国有化。第二次世界大戦直後のフランスにおいて、社会党、共産党を中心とする革新政権によって推進された、四大銀行、保険会社、電力、ガス、石炭、ルノー自動車の国有化がその例である。
上記の諸要因のほかに、運輸、郵便、道路、港湾、医療などの公共的分野では、基本的生活基盤の重要性から国家の管理運営が必要になるという理由で国有化される場合もある。資本主義的国有化の方法は、議会における立法措置により国有化し、前所有者には経済的補償を行うのが普通である。なお、発展途上国における国有化には、産業育成という目的のほかに、民族の経済的自立のための外国企業の国有化という要請が含まれることがある。
[西村可明]
社会主義的国有化は、労働者階級を中心とする勤労人民が国家権力を掌握したのちに、資本主義体制を廃棄し、社会主義体制へ移行することを目的として、社会の生産財の基本部分を社会の所有に、社会を代表する機関としての国家の手に移すことである。国有化は革命政府のもとでの立法措置に基づくが、その具体的方法や速度は各国の歴史的条件によって異なる。
ソ連の場合、1917年の十月革命によって社会主義への移行を直接の実践的任務とみなすソビエト政権が誕生したこと、帝国主義列強の干渉戦争や反革命勢力との内戦のため困難な情勢が生じたことなどを背景として、1918年から19年にかけての短期間のうちに、無償没収による国有化が大規模に行われた。東欧諸国では、第二次世界大戦後に、ファシズム支配体制の廃棄と民主的国家の建設を課題とする政権が誕生した結果、ドイツ資本の企業やファシズムに協力した資本家の企業は無償没収されることになったが、それ以外の私的資本の企業は当初国有化されなかった。しかしその後、政権内での共産党の地位が強化されるにつれ、そのイニシアティブのもとに、社会主義建設を目ざす国有化が1940年代末にかけて本格的に推進された。国有化に際しては有償主義が採用されたが、実際にはその代償が支払われない場合が多かった。東ドイツでは、私的企業が半官半民の企業を経て国営企業に転化されるという、漸進的国有化が行われた。中国でも、即時無償没収が適用された官僚資本企業は別として、民族資本家の企業は、まず公私共営企業に移され、資本家が利潤分配を長期にわたり受け、その後に国営企業に転化されるという漸進的方法がとられた。また個人農など小商品生産者が広範に存在した国では、たとえばソ連におけるコルホーズのソフホーズへの転化にみられるように、初めに集団化によって協同組合が組織され、のちにこれが国有化される場合もある。なお、社会主義政権が成立してから国有化が実施されるまでの間は、企業活動を維持し、また労働者が管理を学ぶために、私企業の資本家による経営管理を労働者が統制する「労働者統制」が実施されることが多い。
ところで、国有化による私有財産制度の廃止は、社会主義建設の可能性をつくりだすが、それだけではその現実性を保証するものではない。というのは、第一に、法律上の国有化は、効率の観点からも社会的観点からも合理的な、国民経済管理の組織化によって補完される必要があり、国有制度自体がそのような経済活動を通じて再生産され維持される必要があるからである。第二に、民主的政治システムが確立されないならば、国家機関の意思と社会の意思との間に乖離(かいり)が生じ、国有化は社会的所有とは異なる国家官僚支配をもたらすからである。それゆえ、社会的所有の成立のためには合理的国民経済管理システムと民主的政治システムの発展が必要になる。ユーゴスラビアで1950年代初頭から実験された労働者自主管理は、国家的所有の長期的存続は国家機関の全能化と支配をもたらすという反省から、経済運営の非国家化を追求したものである。またハンガリーの1968年の改革は、産業の性格や企業規模を無視した国有化は経済効率を保証しないから、生産力の発展水準に応じた適切な国有化が必要だという見解に基づき、過度の国有化を是正し、混合経済化を目ざしたものであった。現代社会主義はこのような模索にもかかわらず、合理的な国有制度と経済管理制度の確立に成功せず、結局崩壊するに至ったといえよう。またかつて国有化を推進した資本主義諸国においても、非効率な国有企業の私有化が行われるようになっている。
[西村可明]
『平田重明編『東欧の労働者統制と国有化』(1975・アジア経済研究所)』▽『森章編『社会主義企業論』(1977・日本評論社)』▽『儀我壮一郎編『現代企業と国有化問題』(1978・世界書院)』▽『西村可明著『現代社会主義における所有と意思決定』(1986・岩波書店)』
企業等の私有財産を国家が所有し,国家の直接,間接の支配,管理のもとにおくことをいう。私有財産を国有化する手段としては出資,買収(補償),没収がある。国有化の対象となるものは,通常はある産業において私企業が所有する生産設備(生産手段)や資源であるが,歴史的には個人,地主,封建領主等が所有したものも含まれる。国家による所有と管理の形態としては,政府が直接に所有管理するもの(郵政省,造幣局等)のほか,公社や公団のように政府から一定の距離を保つ公共企業体の形をとるもの(住宅・都市整備公団等)もある。企業等の国有化が起こる理由は,経済的なものと,政治的あるいはイデオロギー的なものとに大別できる。現実の国有化の例はこの二つの要素がまざり合っており,区別しにくいことが多い。
経済的理由によるものとしては,特定の産業の生産するものが公共性の高い商品で,かつ市場メカニズムにゆだねておいては適正な供給が確保されない場合がある。公共性の高い商品とは,公共財といわれるもので,教育,国防,福祉,運輸・通信等がそれである。公共財は,外部経済や外部不経済をもち,その生産者が正当な報酬を得ることができないため,市場メカニズムによる供給が十分なされない。また,後発型の資本主義国や発展途上国では,その資本市場が未発達であるため特定の産業が独力で育たず,国営企業としてそれらを育成する場合がある。経済が十分発達すれば市場メカニズムによって供給しうるものを,市場にその力がないため,国家が租税等の財源を用いてこれを育成するわけであり,一般論としては一定期間後に民営に移すことが望ましい。このほか政府の財源の確保のためという場合もある。さらに公共性をもつ産業のなかには,政府が安全保障上や軍事上重要と考えて国有化したり,国有産業として設立・管理するものもある(航空業,原子力関係,通信・運輸の一部)。
イデオロギー的なものとしては,共産主義,社会主義あるいは社会民主主義的イデオロギーによるものがある。このイデオロギーによれば,私有財産制を前提とする資本主義的企業は資本家による労働者の搾取,所得分配の不公正等を必然的にもたらすので,上記のイデオロギーをもつ政党が指導する国家が産業の大部分(とくに銀行等を含む基幹産業),あるいは一部を所有・管理することが望ましい。とくにマルクスの労働価値説にイデオロギー的根拠を求める社会主義諸国(ソ連,東欧諸国,中国等)は,国によって程度は異なるが,一般に他の地域の諸国とくらべて徹底した国有化を行った(〈計画経済〉の項参照)。他方,社会民主主義や福祉国家を資本主義の枠のなかで実現しようとした北欧や西欧の諸国の一部では,より限定された国有化,あるいはそれに準じる形の政府介入が行われた。また旧植民地国や発展途上国が自国内にある外国企業を国有化することがある。これは,民族独立や経済の独立をめざす運動の一環であるという政治的・イデオロギー的側面をもつと同時に,自国内の資源開発において,先進国企業の直接投資から得られる利益(法人税,賃金)をさらにふやすという富の国際的な再配分という側面をもつ。経済的要因とイデオロギー的要因とが混合している先進国の場合として,不況産業を国有化して失業の増大や重要産業の喪失を防ごうとした例(イギリスにおける石炭産業や自動車産業(BL)の国有化)もある。
国有化に伴う問題としては,国有化された企業が市場メカニズムの作用を受けなくなるため,どのようにして価格,生産,投資を決定すればよいかを決める客観的基準が見つけにくいことがある。いうまでもなく私企業の場合は市場から得られる利潤の有無がその基準を与える。また,どの企業をどの期間国有化すれば国民的利益が最大となるのかという問題も,経済学的に十分解明されていない。国有化は,その対象となる産業の公共性が明白であり,かつ私企業による供給がうまくいかない場合にかぎって,その有用性は肯定しうる。しかしこの場合も,国有化という最も強力な政府介入の形を採用せず,補助金や課税,法律による規制等,より弱い政府介入を採用しても同じ目的を効率的に達することが可能であることが多い。国有化を行えば,短期的には公共性の高い商品の供給の確保や所得分配の公正等が得られるようにみえるが,長期的にはその産業の効率性が低下し,それが経済成長の阻害要因になることも少なくない。
執筆者:鬼塚 雄丞
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
十月革命で成立したソヴィエト政権は土地の国有化(1917年11月),銀行の国有化(同12月),大規模工業の国有化(18年6月),中小工場の国有化(20年11月)を実施した。第二次世界大戦後には,イギリスなどで社会民主主義政権のもとでも重要産業の国有化がなされた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…主として海外投融資や貿易取引に付随するリスクをいうが,その意味内容としては,事業計画の妥当性にかかわるリスク(プロジェクト・リスク),取引相手先の信頼性にかかわるリスク(プライベート・リスク),為替リスクなどに該当しない取引相手国にかかわるリスクの総称として使われている。また,カントリー・リスクは,取引相手先の所属する国の外貨資金繰り悪化から対外債務履行が不可能になるリスク(ソブリン・リスクsovereign risk),投融資相手国政府の政策変更による国有化のリスク,そして相手国における革命,内乱,戦争など非常事態の発生によって通常の企業経営や貿易取引が困難となる非常危険リスクの三つに分類できる。 カントリー・リスクは相手国全体の状況変化から生ずるリスクであるが,相当に異質なリスクの集合概念である。…
※「国有化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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