1941年3月7日公布。国家機密の漏洩(ろうえい)防止を目的とした法律。すでに軍事上の機密保護に関しては,軍機保護法(1899公布),軍用資源秘密保護法(1939公布)などの法規が存在し,軍事以外の事項の機密保護に関しても,出版法(1893公布),新聞紙法(1909公布),国家総動員法(1938公布)中の諸規定などが存在していたが,日中戦争の長期化に伴う戦時体制強化のため,政治上の機密事項の漏洩を取り締まることを目的として国防保安法が制定された。5月10日に内地,朝鮮,台湾,樺太で施行され,のちには南洋群島,関東州にも適用された。同法は,御前会議・枢密院会議・閣議・帝国議会秘密会議などに付せられた事項およびその議事で,国防上,外国に対して秘匿することを必要とする外交・財政・経済・その他の重要事項を国家機密とし,その〈漏泄〉〈探知〉〈収集〉およびこうした行為の〈教唆(きようさ)〉〈煽動〉などを厳重に取り締まることを規定(最高刑は死刑),さらに,その刑事手続に関しても,検事に捜索・押収などの強制処分権を付与し,加えて弁護士を司法大臣のあらかじめ指定した者に限定し,控訴審を廃止するなど,国家権力の強力な発動を認容した。この刑事手続は本法以外の広範な事件にも適用されることを規定し,全体として刑事訴訟法に対する重大な特則とした。同法は,国家機密の定義のあいまいさともあいまって,国民の自由を大幅に制限し,国民の政治に対する適切な判断を著しく困難なものとした。43年のゾルゲ事件裁判の際,西園寺公一,犬養健などはこの法の適用を受けた。45年10月13日,軍機保護法,言論出版集会結社等臨時取締法などとともに,GHQの指令に基づくポツダム勅令により廃止された。
執筆者:吉田 裕
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…42年には,大政翼賛会の末端組織が,町内会・部落会,さらに隣組の組織と結びつくものとされ,国民すべてが戦時体制に組み込まれた。治安立法は,思想犯保護観察法・不穏文書臨時取締(ともに1936公布),国防保安法・改正治安維持法の制定および刑法の改正(いずれも1941公布)により強化され,42年には裁判所構成法戦時特例,戦時民事特別法,戦時刑事特別法の制定により,戦時司法体制が確立した。戦時体制の下で,国民の基本的人権は極度の圧迫を受けた。…
※「国防保安法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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