日本大百科全書(ニッポニカ) 「国際裁判」の意味・わかりやすい解説
国際裁判
こくさいさいばん
国連憲章は、紛争の平和的解決手段として交渉、審査、仲介、調停、仲裁裁判、司法的解決などをあげている。ここに交渉はいうに及ばず、第三者が入る審査、仲介また調停も、紛争を解決し、終わらせる当事者間の合意形成を促進する手段であるのに対して、仲裁裁判や司法的解決は、第三者(国際裁判官)が下す拘束力ある決定(判決)によって紛争を解決する手続である。
国際裁判は、仲裁裁判と司法的解決に区別される。仲裁裁判は、当事者の自主性を尊重する国際裁判の伝統的形態であって、具体的紛争が発生したとき、当事者が特別の合意(コンプロミー)を結んで、その紛争の裁判をする1または2以上の人を選定し、適用すべき裁判規準や裁判手続を規律する規則をも定めるものである。
これに対して第一次世界大戦後、常設国際司法裁判所が設立されるに及んで、この裁判所が行う裁判を司法的解決とよぶようになった。第二次大戦後、常設国際司法裁判所は国際司法裁判所にかわった。司法的解決に訴える当事者は、自分たちで裁判所をつくり、裁判規準や手続規則を定めるわけにはいかない。とはいえこの司法的解決においても、裁判所は真実かつ本来の強制的裁判権を与えられているのではなく、特定紛争の裁判をする権限は、つねに当事者の同意に基づく。国際司法裁判所規程は、直接かつ一様に規程当事国に対して強制的管轄権を設定しておらず、裁判所の管轄権は、裁判所規程の枠外で国々により任意に形成される合意に依存する。また他方で、当事者の国籍を有するあるいは当事者が任命する裁判官が裁判に出席する権利も認められている。ゆえに、国際司法裁判所における司法的解決は、仲裁裁判とはっきり区別される制度的機能を示すというよりも、仲裁裁判の高度に完成された段階を示すものというべきである。
国際司法裁判所の場合、裁判所に係属する事件の当事者となりうるのは、もっぱら国だけである。しかし裁判所は、規程当事国に開放されるだけではなく、その他の国々も一定条件のもとで裁判所を利用することができる。裁判所の管轄権、すなわち判決を介して紛争を解決する権能は、すでに発生した具体的紛争につき特殊的管轄権の形ででも、将来発生しうべき不定数の紛争につき一般的管轄権の形ででも設定されうる。仲裁裁判の場合には、すでに発生した具体的紛争を解決するため、当事者は、その紛争につき特殊的管轄権を設定する特別の合意を締結することになる。国際法上この合意を締結するか否かは自由であるが、条約によって締結の義務が創設されることがある。これを義務的仲裁裁判という。
司法的解決の場合、裁判所は、国に対しその同意を得てのみ管轄権を行使しうるが、しかし、一度当事者がなんらかの形で管轄権を受諾した以上、裁判所は管轄権を有する。裁判所規程は、常設国際司法裁判所について導入された「選択条項(任意条項)」の制度を受け継いだ。この制度のもとで、裁判所の法律的紛争に関する一般的管轄権が創設される。すなわち、規程当事国には、その作成する宣言により裁判所の管轄権を同一の義務を受諾する他の国に対する関係において当然に義務的であると認める選択が開かれている。そしてこの宣言を事務総長に寄託することにより、他の宣言国に対する関係においてこの制度の当事者となる。当事国間の契約関係およびそれから生ずる裁判所の管轄権は、この宣言寄託の時点で設定される。選択条項に基づく裁判所の管轄権は、それぞれ一方的に起草される二つの宣言の一致する範囲内で存在する。
すべて国際裁判所の判決は当事者を拘束する効力をもつ。当事者は言い渡された判決に従わねばならない。国際裁判は一審をもって終結するのが原則であるから、当事者は判決で示された紛争の解決を、もはや争いえない確定的なものとして承認せねばならない。国際司法裁判所規程も、裁判所の裁判は、当事者間において、かつその特定の事件に関して拘束力を有すると定め、また判決は終結とし、上訴を許さないと定めている。
なお以上のほかに、地域的な国際裁判所として、EC裁判所、欧州人権裁判所、米州人権裁判所などが、それぞれ独自の手続により活発な活動を展開してきている。最近の動きとしては、国連海洋法条約に基づく国際海洋法裁判所がハンブルグに設立されて、その最初の判決を1997年11月に出している。他方で、戦争犯罪などの罪で個人を処罰するために、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所とルワンダ国際刑事裁判所が国連安全保障理事会の決議に基づいて相次いで設置された。さらにまたそれとは別に、普遍的な国際刑事裁判所(ICC)の設置のための条約を採択するための外交会議が1998年の6月から7月にかけてローマで開催された。
[皆川 洸・川﨑恭治]