日本大百科全書(ニッポニカ) 「言語年代学」の意味・わかりやすい解説
言語年代学
げんごねんだいがく
放射性炭素14(14C)の残存放射能の測定による年代算定法にヒントを得て、アメリカの言語学者スワデシュが、1950年代に発表して有名になった方法。語彙(ごい)統計学ともいう。二つの言語が分裂してから経過した年代を測定する方法で、次のような公式による。
tは二つの言語が分裂してから経過した年代、cは比べられた二つの言語が共通に保存する語彙数のパーセンテージ、rは言語一般に認められる1000年単位に換算した語彙の平均保持率とする。
このうち重要なのはrで、スワデシュは、過去の文献をもつ12の言語(うちインド・ヨーロッパ語族から10言語)につき、215項目の基礎語彙が1000年間に平均して81%保持されるという結果を得、rを定数とした。もし100項目の基礎語彙表を用いるならば、rは上昇して85%となる。たとえば、ゲルマン語派の現代英語と現代ドイツ語との分裂年代は、1952年から1236年前、すなわち西暦716年と出る。しかしこの数字は、5世紀ごろからのゲルマン人のイギリス侵入という歴史的事実にあわない。これは、式のうえでは、分裂した直後から2言語間にまったく語彙的交渉があってはならないことを前提としているためで、その後、経験的方面からのいくつかの修正式も提案されている。またrの定数的性格についてもいろいろの言語の調査から疑問が提出された。さらに、比べられる2言語は、同じ語族に属することが前もって比較言語学的に証明されていなければ、この方法を用いて得られた答えも無意味になる。
[崎山 理]