六訂版 家庭医学大全科 「外傷性頸部症候群」の解説
外傷性頸部症候群
がいしょうせいけいぶしょうこうぐん
Traumatic cervical syndrome
(外傷)
どんな外傷か
主に自動車事故のほか、飛び込み事故や偶発事故による衝撃で頸部にもたらされるエネルギーが
以前は、追突事故などで頸部がむちのように前後にしなるために損傷されるとして、むちうち損傷と呼ばれた時期もありましたが、診断名としての“むちうち”は加害的な病名であり、患者さんに過大な不安を与える点では不適切なものといえます。したがって、現在ではむちうち損傷という病名は使われず、外傷性頸部症候群、もしくは頸部(頸椎)
また、以前は四肢の知覚、運動障害を生じる
症状の現れ方
頭痛、頸部痛、頸椎の運動障害が3大症状です。とくに、頸部痛は約88~100%に現れるともいわれます。
後頭部、頸部から背部の痛みやこり、上腕から手指の痛みやしびれ、脱力などの
一般的には事故直後から症状が出ることが多いといえますが、約5分の1は事故後12時間あるいはそれ以降に頸部痛が現れたという報告もあります。
検査と診断
①問診
まず、事故の状況を患者さんから問診することが大切です。事故情報では、事故の状況として、自動車、バイク、自転車に乗っていたか、あるいは歩行者であったか。自動車に乗っていたとすれば、その車種はバンかバスか。乗用車に乗っていたとすれば、車両に加わった衝撃の方向、車両は横転したか、事故後、車両は走行可能であったか、事故時の乗車位置、シートベルトを着用していたか、座席にヘッドレストがついていたか、などを尋ねます。これは受傷した際の状況と外力を客観的に推定する点で有用です。
②診察
局所の症状、および神経学的所見を入念にチェックします。具体的には、頸部の圧痛、
③画像検査
a.単純X線
頸部に訴えがない場合には必要ないとの考えもありますが、通常は念のために行います。撮影方向は、正面・側面像の2方向が最低限必要ですが、場合によっては両斜側面、前・後屈を加えた6方向を、さらには上位頸椎の異常が疑われる場合には開口位正面像を追加することもあります。
b.MRI(磁気共鳴映像法)
単純X線では映らない椎間板、脊髄などの骨以外の組織を映し出すことができます。神経学的検査で異常がみられた場合や、症状が長期にわたって続いた場合に撮影します。
治療の方法
基本は保存的治療になります。個人個人で治るまでの期間には差がありますが、適切な治療を受ければ、経過は良好なけがです。基本的には治るものと考えてよく、過度の不安は不要です。
以下に受傷からの時期に応じた治療法を示します。
①急性期(受傷直後~3週まで)
急性期では、基本的には手足の外傷に対する治療に準じます。症状が軽ければ外来通院とし、比較的安静をとり、鎮痛薬、消炎酵素薬、
頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気などの症状が強い場合や頸部の運動制限が著しい場合には数日間入院し、ベッドで安静をとることもあります。
②亜急性期(3週~3カ月まで)
頸椎牽引、温熱療法などの理学療法を行います。場合によっては神経ブロック(
また、社会復帰に向けての日常生活指導や体操療法も行います。頸部のポリネック固定は、長期間行うと頸部周囲の筋力低下や、頸椎の
③慢性期(3カ月以上)
受傷から3カ月以上たった場合には、頸部周囲筋の筋力増強訓練や心療内科で心理療法を行います。また、必要に応じて眼科、耳鼻咽喉科、脳神経外科などの専門医の診察や検査を行います。
応急処置はどうするか
まずは整形外科医を受診し、必要に応じてカラーポリネックなどの固定を行います。
朝妻 孝仁
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報