外傷性頸部症候群(読み)がいしょうせいけいぶしょうこうぐん(英語表記)Traumatic cervical syndrome

六訂版 家庭医学大全科 「外傷性頸部症候群」の解説

外傷性頸部症候群
がいしょうせいけいぶしょうこうぐん
Traumatic cervical syndrome
(外傷)

どんな外傷か

 主に自動車事故のほか、飛び込み事故や偶発事故による衝撃で頸部にもたらされるエネルギーが頸椎(けいつい)靭帯(じんたい)椎間板(ついかんばん)関節包(かんせつほう)および頸部の筋肉、筋膜を損傷して起こります(図4図5)。

 以前は、追突事故などで頸部がむちのように前後にしなるために損傷されるとして、むちうち損傷と呼ばれた時期もありましたが、診断名としての“むちうち”は加害的な病名であり、患者さんに過大な不安を与える点では不適切なものといえます。したがって、現在ではむちうち損傷という病名は使われず、外傷性頸部症候群、もしくは頸部(頸椎)捻挫(ねんざ)、頸部(頸椎)挫傷(ざしょう)と呼ぶほうが一般的です。

 また、以前は四肢知覚、運動障害を生じる脊髄症型(せきずいしょうがた)を外傷性頸部症候群に含めていましたが、現在ではこれを頸髄損傷として外傷性頸部症候群からは外しています。

症状の現れ方

 頭痛、頸部痛、頸椎の運動障害が3大症状です。とくに、頸部痛は約88~100%に現れるともいわれます。

 後頭部、頸部から背部の痛みやこり、上腕から手指の痛みやしびれ、脱力などの頸肩腕(けいけんわん)症状や、めまい、眼のかすみ、耳鳴り、耳閉感、動悸、声のかすれ、吐き気、顔面の紅潮、全身の倦怠感(けんたいかん)、集中困難などのいわゆるバレルー症状があります。また、時に腰痛を訴えることもあります。

 一般的には事故直後から症状が出ることが多いといえますが、約5分の1は事故後12時間あるいはそれ以降に頸部痛が現れたという報告もあります。

検査と診断

①問診

 まず、事故の状況を患者さんから問診することが大切です。事故情報では、事故の状況として、自動車、バイク、自転車に乗っていたか、あるいは歩行者であったか。自動車に乗っていたとすれば、その車種はバンかバスか。乗用車に乗っていたとすれば、車両に加わった衝撃の方向、車両は横転したか、事故後、車両は走行可能であったか、事故時の乗車位置、シートベルトを着用していたか、座席にヘッドレストがついていたか、などを尋ねます。これは受傷した際の状況と外力を客観的に推定する点で有用です。

②診察

 局所の症状、および神経学的所見を入念にチェックします。具体的には、頸部の圧痛、棘突起(きょくとっき)叩打痛(こうだつう)ハンマーで叩いた時の痛み)の有無、頸椎の動きをチェックします。また、上肢下肢に痛みやしびれなどの症状がある場合には、頭部圧迫試験、四肢の腱反射握力を含めた筋力検査、知覚検査などの神経学的検査を行います。

③画像検査

a.単純X線

 頸部に訴えがない場合には必要ないとの考えもありますが、通常は念のために行います。撮影方向は、正面・側面像の2方向が最低限必要ですが、場合によっては両斜側面、前・後屈を加えた6方向を、さらには上位頸椎の異常が疑われる場合には開口位正面像を追加することもあります。

b.MRI(磁気共鳴映像法)

 単純X線では映らない椎間板、脊髄などの骨以外の組織を映し出すことができます。神経学的検査で異常がみられた場合や、症状が長期にわたって続いた場合に撮影します。

治療の方法

 基本は保存的治療になります。個人個人で治るまでの期間には差がありますが、適切な治療を受ければ、経過は良好なけがです。基本的には治るものと考えてよく、過度の不安は不要です。

 以下に受傷からの時期に応じた治療法を示します。

①急性期(受傷直後~3週まで)

 急性期では、基本的には手足の外傷に対する治療に準じます。症状が軽ければ外来通院とし、比較的安静をとり、鎮痛薬、消炎酵素薬、筋弛緩薬(きんしかんやく)などの内服薬を投与します。また、冷湿布などの外用薬も有効です。ただし、機械による牽引(けんいん)温熱療法は急性期に行うと症状を悪化させる危険性があるため、受傷後2~3週は行いません。症状が中等度であれば、カラーポリネックで頸部を固定するのもよいでしょう。

 頭痛、めまい耳鳴り、吐き気などの症状が強い場合や頸部の運動制限が著しい場合には数日間入院し、ベッドで安静をとることもあります。

②亜急性期(3週~3カ月まで)

 頸椎牽引、温熱療法などの理学療法を行います。場合によっては神経ブロック(星状神経節(せいじょうしんけいせつ)大後頭(だいこうとう)神経)やトリガーポイント注射を行います。薬物療法は急性期と同様ですが、精神安定薬などを用いることもあります。

 また、社会復帰に向けての日常生活指導や体操療法も行います。頸部のポリネック固定は、長期間行うと頸部周囲の筋力低下や、頸椎の拘縮(こうしゅく)(変形して硬くなる)を生じることがあるので、次第に外していきます。

③慢性期(3カ月以上)

 受傷から3カ月以上たった場合には、頸部周囲筋の筋力増強訓練や心療内科で心理療法を行います。また、必要に応じて眼科、耳鼻咽喉科、脳神経外科などの専門医の診察や検査を行います。

応急処置はどうするか

 まずは整形外科医を受診し、必要に応じてカラーポリネックなどの固定を行います。

朝妻 孝仁


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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