家庭医学館 「多発性筋炎/皮膚筋炎」の解説
たはつせいきんえんひふきんえん【多発性筋炎/皮膚筋炎 Polymyositis / Dermatomyositis】
[どんな病気か]
◎全身に多彩な症状がみられる
[症状]
[検査と診断]
◎ステロイド薬で治療
[治療]
◎ステロイド薬の副作用対策
[日常生活の注意]
[どんな病気か]
多発性筋炎(たはつせいきんえん)は、おもに、くび、肩、上腕(じょうわん)、腹、臀部(でんぶ)、大腿(だいたい)(太もも)など、からだの中心部に近い骨格筋(こっかくきん)(近位筋(きんいきん)といいます)が炎症(筋炎(きんえん))をおこす病気です。
病気の原因は、はっきりしませんが、膠原病(こうげんびょう)の1つです。
一方、筋炎だけでなく、皮膚に特徴的な赤い斑点(はんてん)(紅斑(こうはん))がみられる患者さんが約半数ほどおり、これを皮膚筋炎(ひふきんえん)と呼びます。筋炎に関しては、両者にはっきりしたちがいはみられません。
これらの患者さんでは、筋肉と皮膚以外に、関節、心臓、肺にも炎症がおよびます。自己抗体(じここうたい)(免疫のしくみとはたらきの「自己免疫疾患とは」)など、免疫の異常もみられます。さらに、がんをふくむ悪性腫瘍(あくせいしゅよう)をともなうことが多いこと、ほかの膠原病をともなう(オーバーラップ症候群(しょうこうぐん)と呼びます)ことが多いのも特徴です。
この病気は、厚労省の特定疾患(とくていしっかん)(難病(なんびょう))に指定されており、治療費の自己負担分の大部分は公費で支払われます。
●病気になりやすい人
子どもから高齢者まで、すべての年齢で発病しますが、小児期に小さな発病のピークがあり、40~60歳には大きなピークがあります。
男女比は1対2で、やや女性に多い病気です。
がんを合併する患者さんは40歳以上で、男性に多い傾向がみられます。
[症状]
筋肉症状、皮膚症状、内臓病変などがあります。
●筋肉症状
筋炎がみられる場合は、筋力低下に注意します。筋力低下は、からだの中心に近い筋肉、とくに下肢(かし)(脚(あし))からおこります。
階段の昇降が困難になったり、バスに乗ること、トイレから立ち上がることがむずかしくなります。この症状が進むと、ベッドから起きあがれない、荷物を持ち上げられない、などの症状が現われます。
さらに進行すると、咽頭(いんとう)(のど)のまわりの筋力が低下するため、鼻声、飲み込みにくいなどの症状も出ます。
●皮膚症状
典型的な皮膚症状としては、ヘリオトロープ疹(しん)(コラム「ヘリオトロープ疹」)と、関節外側の落屑(らくせつ)(皮膚の表面が白っぽくはがれてくる)をともなう紅斑があります。紅斑は、手指、肘(ひじ)、膝(ひざ)の関節の外側によくみられます。
関節炎の多発(とくに病初期)やレイノー現象(手指が蒼白(そうはく)になってから赤くなる)がおこることもあります。
●内臓病変
間質性肺炎(かんしつせいはいえん)(「間質性肺炎とは」) これは日本人に高率(全患者の30~40%)にみられる内臓病変です。慢性に経過することが多いのですが、ときには急性に進行し、呼吸不全(こきゅうふぜん)で死亡する例もあります。たんの少ないせき(からせき)と息切れがおもな症状です。
心筋炎(しんきんえん)(「心筋炎」) 骨格筋の病変と比べれば少ないのですが、心臓の筋肉にも病変が生じます。そのため、不整脈(ふせいみゃく)や心不全(しんふぜん)をおこすこともあります。
悪性腫瘍(がん) この病気にともなう、もっとも重大な合併症は、がんです。これは40歳以上で発病した場合におこります。男性の皮膚筋炎では、とくに高い割合でがんを合併します。両者は、ほとんど同時に発病するとされており、皮膚筋炎と診断されたら、がんがかくれていないか検査する必要があります。それには、肺がん、胃など消化管のがん、乳がんや子宮がんの検査が必要です。
[検査と診断]
血液検査、筋電図検査、筋生検(きんせいけん)、免疫学的検査が行なわれます。
●血液検査
筋炎がおこると、筋肉が破壊され、筋肉にふくまれている酵素(こうそ)が血液中に流出します。そのため、各種の酵素(CK、アルドラーゼ、GOTなど)の値が上昇します。
これらの酵素値の上昇は、診断にも必要ですが、その値は治療効果の判定やリハビリテーションの進め方の目安にもなるので、重要な検査です。
●筋電図検査
筋肉に電極の針を刺して、筋肉の活動性をみる検査です。筋肉に障害があれば、筋肉内に流れる微小な電流に変化が生じます。
●筋生検
障害されている筋肉のごく一部を切りとって、顕微鏡で筋肉の炎症の有無をみる検査です。組織の炎症がみられれば、この病気を診断する確実な証拠が得られたといえます。
●免疫学的検査
免疫系に異常がみられ、自己抗体が陽性となる患者さんがいます。とくに慢性の肺線維症(はいせんいしょう)(肺が硬化する慢性の間質性肺炎)をともなう場合は、抗Jo‐1抗体と呼ばれる自己抗体が血液中に現われます。
診断は、筋力の低下と皮膚症状を示す皮膚筋炎では、比較的簡単です。
多発性筋炎では、筋力の低下と前述の検査を組み合わせて診断します。
筋肉が障害される病気(筋ジストロフィーなど)や、神経障害によって筋力が低下する病気(筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)など)とまちがえないように診断する必要があります。そのためには、筋肉から組織の一部をとって検査する、筋生検を行なう必要があります。
[治療]
大量のステロイド(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン)薬が使用されます。ふつう内服で用いられますが、ときには静脈に大量のステロイド薬を3日間点滴し(パルス療法)、その後に内服となることもあります。
ステロイド薬は、症状や筋肉の酵素の値をみながら、徐々に減量します。
この治療でも十分な改善がみられないとか、副作用が強くて使用できないような場合には、免疫抑制薬(めんえきよくせいやく)が併用されることもあります。
症状がよくなっても、再発予防のために、少量のステロイド薬を何年も使用します(維持療法(いじりょうほう))。症状が重いときには、安静が第一で、入院します。
筋力が回復し、筋肉由来の酵素の値が落ち着いてきたら、ゆっくりと運動療法(リハビリテーション)をはじめます。
[日常生活の注意]
この病気は、長期間、大量のステロイド薬を服用しなければなりません。
ステロイドの副作用としては、感染症がおこりやすい、精神的に不安定になる、糖尿病・骨粗鬆症(こつそしょうしょう)・高脂血症(こうしけっしょう)・緑内障(りょくないしょう)・白内障(はくないしょう)を合併する、などがあります。
その対策としては、発熱など、調子が変だと感じたら、ただちに主治医に相談して検査をしてもらうことです。
食事療法としては、高たんぱく質でカルシウムが豊富な食事にし、脂肪分、糖分は、運動量に合わせてひかえめに(体重増加は禁物です)、が原則です。
筋炎の回復期に、弱っている筋肉を過度に動かすことは禁物です。運動療法は、筋肉酵素の値をみながら、少しずつ行ないます。