大殿(読み)オトド

デジタル大辞泉 「大殿」の意味・読み・例文・類語

おとど【殿/大臣】

《「おおとの」の音変化か》
貴人邸宅敬称御殿ごてん
「―の瓦さへ残るまじく吹き散らすに」〈野分
貴人や、大臣だいじん公卿くぎょうなどの敬称。
「さぶらひ給ふ右大将の―」〈宇津保・俊蔭〉
貴婦人女房乳母めのとなどの敬称。
命婦みゃうぶの―」〈・九〉

おお‐との〔おほ‐〕【大殿】

《「殿」は建物の意》宮殿や貴人の邸宅の敬称。
《「殿」はそこの主たる人物を間接的に表す》
㋐貴人の当主の父、また、貴人の跡取り息子に対して当主をいう敬称。⇔若殿
大臣の敬称。おおいどの。おとど。
「―の御心いとほしければ」〈帚木

おおい‐どの〔おほい‐〕【大殿】

《「おおいとの」とも》
大臣の邸宅の敬称。
「―にも寄らず」〈末摘花
大臣の敬称。
「左の―も、すさまじき心地し給ひて」〈賢木

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精選版 日本国語大辞典 「大殿」の意味・読み・例文・類語

おお‐とのおほ‥【大殿】

  1. 〘 名詞 〙
  2. [ 一 ] 「おお」は尊称。「との」は尊貴、壮麗な建物の意。
    1. 宮殿の美称。
      1. [初出の実例]「即ち、宮垣(みかき)、室屋(オホトノ)堊色(うはぬり)せず」(出典:日本書紀(720)仁徳元年正月(前田本訓))
    2. 特に、宮殿の正殿、寝殿をさしていう。
      1. [初出の実例]「鐸(ぬりて)を大殿(おほとの)の戸に懸けて、其の老媼を召さむと欲(おも)ほす時は、必ず其の鐸を引き鳴らしたまひき」(出典:古事記(712)下)
    3. 貴族の邸宅や居室
      1. [初出の実例]「この夕つかた内裏(うち)よりもろともにまかで給ひける。やがて大殿にも寄らず、二条の院にもあらで引き別れ給けるを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)末摘花)
  3. [ 二 ] 人に対する敬称として用いる。
    1. 大臣に対する敬称。
      1. [初出の実例]「職(しき)御曹司の西面に住みしころ、おほとのの新中将宿直(とのゐ)にて、ものなどいひしに」(出典:枕草子(10C終)二七五)
    2. ( 「おお」は「若」に対して、年をとった人をさす ) 高年の貴人に対する敬称。世子に対して当主をいう場合、当主に対してその父をさす場合がある。⇔若殿
      1. [初出の実例]「大殿(ヲフトノ)計こそ未だ葛西谷(かさいのやつ)に御座候へ。公達(きんだち)を一目御覧じ候て御腹を可召と仰候間、御迎の為に参て候と申ければ」(出典:太平記(14C後)一〇)

大殿の語誌

「大殿」は、「殿」より年齢的に上であり、権勢が強いことが認められる。特に公卿日記では、「殿」が摂政関白在任中の公卿であるのに対し、摂政関白を経験した前任公卿を「大殿」と呼ぶ関係が、かなり明瞭である。


おとど【大殿・大臣】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「おおとの(大殿)」の変化した語 )
  2. 建物を尊んでいう。
    1. (イ) 貴人の邸宅やその中の建物を尊んでいう。御殿
      1. [初出の実例]「おとどの上の瓦くだけて、花のごとく散る」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)
    2. (ロ) ( 「馬場(うまば)のおとど」の形で ) 騎射(うまゆみ)、競馬(くらべうま)を見るために馬場に設けた簡略な建物。
    3. (ハ) ( 「夜のおとど」の形で ) 宮中、清涼殿内にある天皇の御寝所。
  3. 邸宅に住む人を尊敬していう。「…のおとど」「…おとど」の形で、「殿」や「様」の意を表わすことが多い。
    1. (イ) 家の主人である貴人。
      1. [初出の実例]「さぶらひ給ふ右大将のおとど、御馬をひきまはして」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)
    2. (ロ) とくに大臣をさしていう。官職名ではない。
      1. [初出の実例]「左大臣のおとど、世の中をまつりごち」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲下)
  4. 女主人の尊称。
    1. [初出の実例]「北のおとどのおぼえを思ふに」(出典:源氏物語(1001‐14頃)野分)
  5. 女房の尊称。
    1. [初出の実例]「おとど独子(ひとりご)なりければ」(出典:落窪物語(10C後)二)

おおい‐どのおほい‥【大殿】

  1. 〘 名詞 〙 ( 古くは「おおいとの」 )
  2. 大臣の邸宅。
    1. [初出の実例]「五六日さぶらひ給ひておほいどのに二三日など絶え絶えにまかで給へど」(出典:源氏物語(1001‐14頃)桐壺)
  3. 大臣をうやまっていう語。おおとの。おとど。
    1. [初出の実例]「故権中納言、左の大殿(おほいどの)の君をよばひたまうける年の師走(しはす)のつごもりに」(出典:大和物語(947‐957頃)九二)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の大殿の言及

【家督】より

…そして鎌倉時代的な家督の場合は,一族一門の利益代表,利害関係の調停者という点に本質があったが,室町時代以降になると,とくに有力家の家督らは,一家の利益を守るため,公を無視した専制的性格を示すのがふつうであった。そしてそれは,しばしば大殿,大御所の尊称をもって呼ばれた。【鈴木 国弘】
[近世]
 近世においては,主として家の経済的基礎となる財産すなわち家産を指して用いられたが,その相続人をも家督と呼ぶこともあった。…

【殿下】より

…養老儀制令では太皇太后・皇太后・皇后の三后および皇太子に言上するには殿下の敬称をつけよと定め,公式令には殿下の語には闕字(けつじ)の礼を用いよと規定している。しかし平安時代に入るとしだいに用途が広がり,《菅家文草》には中宮(皇太夫人班子女王)や尚侍(嵯峨皇女源全姫)に殿下をつけた例が見え,さらに《九暦》に関白藤原忠平を指して殿下と称したのを早い例として,摂政・関白の敬称として多く用いられ,ついにはただ〈殿下〉といえば現任の摂政ないし関白を指すようになり,これに対し前任の摂政・関白を〈大殿〉と称するようにもなった。明治以降は,皇室典範の規定により,皇后をはじめ三后は天皇とともに陛下と敬称し,殿下は三后以外の皇族,すなわち皇太子,皇太孫,親王,王とその妃および内親王,女王の敬称と定められた。…

※「大殿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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