大気潮汐(読み)タイキチョウセキ(その他表記)atmospheric tides

デジタル大辞泉 「大気潮汐」の意味・読み・例文・類語

たいき‐ちょうせき〔‐テウセキ〕【大気潮×汐】

大気圏に生じる潮汐現象。主に太陽光による大気の加熱に起因し、周期12時間の変動が見られる。低緯度の方が変位は大きい。月と太陽引力によって生じる天文潮と区別して、熱潮汐ともいう。

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改訂新版 世界大百科事典 「大気潮汐」の意味・わかりやすい解説

大気潮汐 (たいきちょうせき)
atmospheric tides

月の引力および太陽放射によって起こる大気の潮汐。一日潮と半日潮とがある。高・低気圧影響を受けない低緯度地方の気圧を時刻別に平均して1日中の変化を調べると,最高値は地方時の午前10時と午後10時に現れ,1日を基本周期とする規則的変化のほかに,その倍振動である半日周期が卓越する。これらの周期の振幅赤道上で最も大きく,1日周期は0.59hPa,半日周期は1.2hPaの振幅である。しかし,低緯度地方以外ではこれらの振幅はきわめて小さい。ハウルウィッツB.Haurwitzが296の観測所の気圧を用いて算出した結果によると,全地球上の半日周期の振幅は,高緯度地方では約0.1hPa,中緯度地方では約0.5hPa程度である。上層風の半日周期の振幅は対流圏で約10cm/sにすぎないが,成層圏では約50cm/s,さらに高度60kmでは10m/sのけたとなり,高層では大きい。

 大気潮汐による気圧変化は太陽時および太陰時に対して規則正しい日変化を示し,太陽日に関連する太陽潮太陰日に関連する太陰潮とがある。太陽潮には24時間,12時間,8時間,6時間周期などの潮汐があるが,半日周期の振幅が大きく,規則正しい。一方,太陰潮は半日周期だけである。

 地球と月,太陽の相対的な位置関係は約24時間の周期で変化し,そのために半日程度の周期をもつ潮汐が発生する。例えば海洋の潮汐はおもに月の引力によって起こり,その周期は約12時間26分である。

 半日周期の振幅が1日周期の振幅より約2倍も大きいことは,すでに1882年J.J.トムソンによって指摘され,太陽の引力によるのではないかと考えられた。しかし,月より小さな起潮力で月の20倍もある振動が生ずるのは,大気に12時間の固有振動周期があって共鳴を起こすためと考えられた。1936年ペケリスC.L.Pekerisはある仮定のもとに大気に約12時間の固有振動周期があることを証明し,問題は解決したかに見えた。しかし,第2次大戦後のロケット観測によって仮定が成り立たないことがわかった。そして共鳴説にかわるものとして,1963年バトラーS.T.Butlerらによって,対流圏の水蒸気による赤外線の吸収と中層大気におけるオゾン層の紫外線吸収のため強制振動が生ずるとの説が出された。このため,大気潮汐は普通の意味の潮汐でなく熱潮汐と呼ばれる。大気の温度が1日を周期として変化することが原因となって潮汐と同じように大規模な気圧の波がつくられ,半日周期と1日周期の熱潮汐は内部慣性重力波として上方に伝搬し,中間圏以上ではっきり現れる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大気潮汐」の意味・わかりやすい解説

大気潮汐
たいきちょうせき

大気圏内におこる潮汐周期の変動現象。天体の引力は、海ばかりでなく、大気にも作用して潮汐現象がおこる。海の場合は太陰半日潮(周期12.4時間)がいちばん大きいが、大気の場合は太陽半日潮(周期12時間)が卓越している。日射により大気中のオゾンや水蒸気が熱膨張して、強制振動をおこすためである。潮汐による気圧変化は高・低気圧の気圧変化よりはるかに小さいので、普通の気象観測では現れてこない。

[安井 正]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大気潮汐」の意味・わかりやすい解説

大気潮汐
たいきちょうせき
atmospheric tide

太陽と月の引力によって起る大気の変動。潮汐は一般に海面に起るものをさすが,大気層にも生じる。 P.ラプラスの計算によれば,赤道において,太陽と月の引力が一致したとき約 0.63mm水銀柱の気圧変動が生じるはずである。しかしこの程度の大きさでは,一般に気象学上の気圧変化の陰に隠れ,検出は困難である。

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百科事典マイペディア 「大気潮汐」の意味・わかりやすい解説

大気潮汐【たいきちょうせき】

海の潮汐と同じように月,太陽の引力の影響で起こる大気の潮汐現象。地上では気圧の規則正しい日変化として現れ,太陽日に関連する太陽潮が24,12,8,6時間周期で,太陰日に関連する太陰潮が半日潮として検出される。熱帯では1日2回,約2mmHgの全振幅で現れる。

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世界大百科事典(旧版)内の大気潮汐の言及

【気圧】より

…緯度が高くなると共に半日周期の変化はその日の天気や高・低気圧の通過で乱されて不明瞭になる。この海の潮汐に似た大気の振動は大気潮汐と呼ばれている。半日周期の波は月よりも太陽による成分が大きい。…

※「大気潮汐」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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