小説家、評論家。福岡市生まれ。本名は巨人(のりと)。九州帝国大学法文学部中退。毎日新聞記者となるが召集で対馬(つしま)重砲隊に入営。第二次世界大戦後『近代文学』拡大同人、綜合(そうごう)文化協会、新日本文学会に参加。最初の小説集は『精神の氷点』(1949)であるが、野間宏(ひろし)の『真空地帯』を批判した『俗情との結託』(1952)で注目を集め、宮本顕治(けんじ)と論争。漢語調の歯切れのよい文体、卓抜な比喩(ひゆ)、強靭(きょうじん)な論理的展開に特徴があり、非妥協的で反逆的な姿勢には一種の潔さが感じられる。こうした資質を十全に生かしきったのが全5巻、4700枚の『神聖喜劇』(1960~1970年『新日本文学』に連載され、1978~1980年刊)で、25年をかけて完成したこの大長編は、超人的な記憶力と弁舌をもつ一兵士像を通して日本陸軍の兵営の構造的な弱点を完膚なきまでにたたいた快作である。ほかに長編として『天路の奈落(ならく)』(1984)、『地獄変相奏鳴曲』(1988)、『三位一体(さんみいったい)の神話』(1992)があり、小説集に『五里霧』(1994)がある。また血友病の長男(大西赤人(あかひと)、作家)が高校に入学を拒否された事件に対しても、告発と特別抗告の行動を粘り強く続けた。その延長線上に遺伝や高齢者問題を論じた『運命の賭(か)け』(1985)や、その小説化ともいうべき『迷宮』(1995)がある。ほかに『戦争と性と革命』(1969)、『巨人批評集』(1975)がある。
[古林 尚]
『『大西巨人文芸論争』上下(1982~1985・立風書房)』▽『『大西巨人文選』全4巻(1996・みすず書房)』▽『『神聖喜劇』1~5(文春文庫・ちくま文庫)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
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