分子細胞生物学者。福岡県福岡市出身。1967年(昭和42)東京大学教養学部卒業。同大理学系研究科博士課程単位取得後退学。1974年同大学で理学博士号取得後、アメリカのロックフェラー大学の博士研究員となり発生生物学に取り組んだ。1977年東大理学部助手、1986年同学部講師、1988年同大教養学部助教授、1996年(平成8)岡崎国立共同研究機構(現、自然科学研究機構)基礎生物学研究所の教授に就任、総合研究大学院大学生命科学研究科基礎生物学専攻教授も兼任した。2009年東京工業大学特任教授、2014年同大栄誉教授。
1988年、東大教養学部の助教授時代に観察しやすい酵母を使った実験をしているとき、光学顕微鏡下でタンパク質が細胞内の小器官に取り込まれて分解されていく現象を観察することに世界で初めて成功した。細胞が栄養不足などになると、細胞内の特殊な機能によって膜が細胞内のタンパク質や小器官を包み込む。続いて膜は分解酵素が入った液胞と合体する。液胞の中の分解酵素は、取り込んだタンパク質をアミノ酸に分解する。その後細胞は、これらのアミノ酸を使って別のタンパク質を合成する。このような、タンパク質をアミノ酸に分解し、アミノ酸を再構成して他のタンパク質をつくるという巧妙なリサイクルシステム=オートファジー(自食作用)を、大隅は世界で初めて解明した。
オートファジーは、1962年にベルギーの細胞生物学者であるクリスチャン・ド・デューブにより提唱された現象で、ギリシア語のオート(auto=自分)とファジー(phagy=食べる)を組み合わせ命名されたが、長らくこの仕組みはわかっていなかった。しかし、大隅は研究を発展させて、オートファジーのメカニズムを分子レベルで解明し、1993年にはオートファジーの鍵(かぎ)となる基本遺伝子群(ATG)を発見した。オートファジーの原理を利用すれば、アルツハイマー病やパーキンソン病、癌(がん)などの治療にも応用できるとして注目されている。
2006年日本学士院賞、2012年京都賞、2013年トムソン・ロイター引用栄誉賞、2015年ガードナー国際賞、文化功労者、2016年文化勲章。同年「オートファジーの仕組みを解明した功績」によりノーベル医学生理学賞を単独で受賞した。
[馬場錬成 2017年3月21日]
(葛西奈津子 フリーランスライター/2016年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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