オートファジー(読み)おーとふぁじー(その他表記)autophagy

翻訳|autophagy

デジタル大辞泉 「オートファジー」の意味・読み・例文・類語

オートファジー(autophagy)

《autoはギリシャ語で自分自身、phagyは食べることの意》細胞が細胞内のたんぱく質を分解する仕組みの一。分解対象物を輸送するメカニズムの違いによってマクロオートファジーミクロオートファジーシャペロン介在オートファジーに分類されるが、単にオートファジーという場合、マクロオートファジーをさすことが多い。マクロオートファジーでは、細胞内に袋状の隔離膜が出現して細胞質の一部を取り囲み、オートファゴソームを形成する。これにリソソーム酵母や植物では液胞)が融合し、たんぱく質やミトコンドリアなどの細胞小器官がまとめて分解される。マクロオートファジーは、酵母から哺乳類まですべての真核生物にみられ、栄養飢餓時のアミノ酸供給、細胞内環境の維持のほか、疾患の抑制、個体発生分化老化免疫など、さまざまな生理機能に重要な役割を果たしている。2016年、オートファジーの仕組みの解明により、大隅良典がノーベル生理学・医学賞を受賞した。自食。自食作用。自己貪食。オートファゴサイトーシス。→ユビキチン‐プロテアソーム系

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共同通信ニュース用語解説 「オートファジー」の解説

オートファジー(自食作用)

栄養不足になった細胞が内部のタンパク質を分解して再利用する仕組み。ほとんどの動物や植物に共通して備わっている。大隅良典おおすみ・よしのり・東京工業大栄誉教授が1990年代前半に関連する遺伝子を発表し、メカニズムの解明が一気に進んだ。飢餓状態を乗り切るだけでなく、老化やがん、感染症の防御などさまざまな生命現象にオートファジーが関わっていることが分かり、一大研究分野に発展している。(共同)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「オートファジー」の意味・わかりやすい解説

オートファジー
おーとふぁじー
autophagy

生物の細胞が、細胞内のタンパク質を分解し、自らの栄養源などとして再利用するシステム。autophagyは、ギリシア語のauto(自ら)、phagy(食べる)からきている。日本語では自食作用と表現される。一般的に、動物では「リソゾーム(リソソーム)」、植物や酵母では「液胞」という細胞内小器官がオートファジーを担う。

 オートファジーは、1960年代に、リソゾームで、その現象の存在が確認されていたが、その分子メカニズムは長らくわからなかった。その解明に貢献したのが、生物学者の大隅良典(おおすみよしのり)である。大隅は1988年(昭和63)に東京大学教養学部生物学教室助教授となって研究室を率い、あまり注目されていなかった酵母の「液胞」に着目した。わずか2か月後に、大隅、馬場美鈴(ばばみすず)(当時、日本女子大学研究員)ら研究スタッフは、液胞の中に、ミトコンドリアやタンパク質が取り込まれ、分解されていく様子を顕微鏡で撮影することに世界で初めて成功した。大隅らは、さらに酵母を栄養不足状態にすると、細胞質の中に隔離膜ができ、その膜がどんどん大きくなり、不要なタンパク質を取り込んだ二重膜構造の分子「オートファゴソーム」が形成されることを突き止めた。そして、このオートファゴソームが、液胞と融合して不要なタンパク質が分解され、生存に必要なタンパク質が生み出されていくオートファジーの仕組みを解明した。

 その後、大隅らは1993年(平成5)、栄養不足にしてもオートファジーが起こらない酵母と正常な酵母の比較からオートファジーに不可欠な遺伝子群(ATG)を発見。オートファジーの制御にかかわる遺伝子は酵母以外の人間などの高等生物でも存在することが解明された。これを機にオートファジー研究は世界的に急速に広がった。大隅はオートファジーの仕組みを解明した功績により、2016年のノーベル医学生理学賞を受賞した。

 オートファジーが注目されるのは、生存に欠かせない仕組みであるという理由だけでなく、多くの病気、感染症の予防、免疫応答などに深くかかわっていることがわかってきたからである。たとえば、高齢化社会で暗い影を落とすアルツハイマー病は、脳の神経細胞に不要なタンパク質が蓄積して発症するといわれているが、こうした神経系の病気はオートファジーの掃除・分解機能が正常に働かないためではないかと考えられている。癌(がん)細胞もオートファジーを逆に悪用して生き延びることがわかってきた。本来、癌は不要な細胞として、細胞内小器官の「ミトコンドリア」などによる細胞死(アポトーシス)誘導によって除去される。しかし、放射線治療や抗癌剤投与によって、ミトコンドリアが傷つけられると、オートファジーが活発になり、ミトコンドリアを処理してしまう。つまり、癌細胞は、オートファジーを巧みに利用して、治療から逃れていることになる。ほかに細菌などの感染を防ぐ作用も確認されており、研究が進めば、病気の画期的な予防法や治療法の解明につながると期待されている。

 オートファジー同様に細胞内の掃除を担うものとして、「ユビキチンプロテアソーム系」がある。ユビキチンがピンポイントでの除去を行うのに対し、オートファジーはまとめて一気に分解することからバルク分解(バルクは嵩(かさ)が大きいという意味)とよばれる。

[玉村 治 2015年6月17日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オートファジー」の意味・わかりやすい解説

オートファジー
autophagy

使用済みあるいは異常な蛋白質や細胞内成分をリソソームで分解し,蛋白質合成やエネルギー生産に再利用する機構。また,細胞が飢餓状態になるとみずからの蛋白質を分解し,栄養源とする機構もオートファジーである。オートファゴサイトーシスともいう。ベルギーの細胞学者で生化学者のクリスチャン・ルネ・ド・デューブが,1963年にこの分解過程にリソソームが関与していることを発見し,オートファジーと名づけた。オートファジーは,マクロオートファジー,ミクロオートファジーとシャペロン介在性オートファジーの 3タイプに分類される。マクロオートファジーは,細胞質内の使用済みあるいは壊れた細胞小器官がオートファゴソーム(二重膜の小器官で分解機能をもつリソソームに内容物を運ぶ)によって取り込まれる機構である。ミクロオートファジーは,異常蛋白質が液胞やリソソームに取り込まれ,分解される機構である。シャペロン介在性オートファジーは,hsc70シャペロンが特定のアミノ酸配列をもつ蛋白質を認識して液胞やリソソームに運び,分解する機構である。オートファジーは,酵母からヒトまでの真核生物に共通に保存されている機構であり,細胞物質の同定,輸送,分解と再利用などの過程に共通の遺伝子が関与している。さまざまな分泌経路,貪食作用(→食作用)や細胞骨格関連遺伝子もオートファジーに必須である。近年,オートファジーは,細胞内に侵入した病原微生物を排除する感染防御の免疫系,胚発生過程のアポトーシス(プログラムされた細胞死)で生じる細胞の除去,異常な物質の蓄積によって生じるパーキンソン症候群筋萎縮性側索硬化症,ミオパシーなどの神経疾患,またの運命にも関与していることが明らかになっている。(→大隅良典

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