日本大百科全書(ニッポニカ) 「天体磁場」の意味・わかりやすい解説
天体磁場
てんたいじば
一般に宇宙に存在する磁場をさすが、恒星磁場、星間磁場、銀河磁場、銀河間磁場に大別される。磁場はそれ自身が広がって弱くなろうとする傾向があるので、恒星や銀河などの宇宙物質が引力によって集積しているところでは比較的強いが、星間空間や銀河間空間では弱い。
太陽のような一般の恒星では黒点のような活動領域を除くと、磁場の強さは平均数ガウス(1万分の1テスラ)程度であるが、フレア星や磁変星では数千ガウスから数万ガウスに及ぶ。磁場は恒星内部のダイナモ機構によって維持されており、恒星表面にフレアをはじめとするさまざまな電磁流体力学的な活動現象を引き起こす。また白色矮星(わいせい)や中性子星などの高密度星では、100万ガウスに及ぶ強い磁場の存在が知られている。この強い磁場が速い自転と結び付いて、パルサーなどの不思議な高エネルギー現象をおこすと考えられる。恒星磁場はスペクトル線のゼーマン効果(磁場によって1つのスペクトル線が3つなどに分離すること)や光の偏光を利用して測定される。
星間磁場は、電波星からの電波の偏波面(偏光面)がファラデー効果(磁場中を通過するときに偏光面が回転すること)で回ることを利用して測定され、10万分の1から100万分の1ガウス程度の弱いものであることが判明している。しかし星間物質が収縮して原始星が誕生する際には、非常な圧縮がおこるので、この程度の磁場が絡み付いたままでは星になれない。また大質量の星の放射や爆発によって周辺の星間物質が急激に押されると衝撃波を生じ、その波面近くでは磁場の強化とともに高エネルギー電子の加速がおこり、シンクロトロン放射が観測される。超新星の残骸(ざんがい)や銀河の渦状腕部にはこの種のシンクロトロン放射が観測されている。
銀河磁場とよばれるものには、銀河規模でみた一般の星間磁場と、銀河中心核などの特殊な活動によって生じた活動磁場の二つがある。一般の銀河磁場は恒星の誕生と死によってつねに励起されるほか、銀河回転によって引き伸ばされ強められる一方、銀河間空間へと逃げていく。銀河回転が卓越しているので、磁力線も渦状腕に巻き付きながらも全体としてはほぼ沿っている。銀河磁場は宇宙線粒子を銀河内に閉じ込めておくのに重要な役割を演じる。活動的な銀河では爆発現象に伴って大規模な磁場を吹き出す。多くは電波銀河として強いシンクロトロン放射が観測される。銀河間磁場は電波銀河からの偏波の観測で測定される。宇宙規模での磁場の方向性や非均一性は、原始銀河雲の形成とも関連してこれからの宇宙論で重要な問題となるであろう。
[小平桂一・安藤裕康]