書名。中国北宋(ほくそう)の周敦頤(しゅうとんい)(濂渓(れんけい))著。「太極図」という一つの図と、その説明にあたる約250字の「説」とによって、宇宙万物の生成の過程を示し、あわせて人間のあり方を論じたもの。本書によれば、万物の根源は太極であって(太極は無極でもある)、太極は動・静の状態を繰り返し、動くときに陽の気が、静止するときに陰の気が生じ、その陰と陽との変化・結合によって水火木金土の五行を生じ、太極と陰陽・五行が渾然(こんぜん)融合して互いに結び付き、天地の分化に応じて男女(雌雄(しゆう)・牝牡(ひんぼう)を含む)が成立し、かくて万物が生出する。そして万物のなかでも人はもっとも優れた存在で、とくに聖人は中正なる人の道を確立したと説く。宋学の大成者、南宋の朱熹(しゅき)(朱子)は、太極を理と解して、これを基にして自己の理気哲学の理論を完成するとともに、本書を注解した『太極図説解』をつくってこれを表彰した。その結果、周敦頤は宋学の開祖と目されるようになった。なお本書は易(えき)の思想に基づくが、唐代以来、仏教・道教の方面で理論を図解して示すことがたびたび行われていて、本書はその様式を踏襲しているし、思想のうえでも道家ないし道教的な思考を継ぐ点のあることが指摘され、さらには『太極図説』を周敦頤の作ではないとする議論も後を絶たない。
[末木恭彦]
『今井宇三郎著『宋代易学の研究』(1958・明治図書出版)』▽『巨勢進他訳注『周濂渓』(『朱子学大系2 朱子の先駆 上』所収・1978・明徳出版社)』
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北宋の宋学の祖周敦頤(しゅうとんい)の著書。1巻。無極にして太極と名づける宇宙の本体から,陰陽,五行,万物,人間(道徳),聖人が生ずるとし,人間道徳の実践に至高の価値を与えた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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…官僚としての経歴には目立ったところはないが,朱熹(しゆき)の顕彰により,道学(朱子学)の第一走者として崇敬され,《宋史》道学伝の筆頭に伝記を立てられた。著書に《通書》と《太極図説》がある。前者で説かれる〈人は学ぶことによって聖人になりうる〉という主張は,のちの朱子学と陽明学のバックボーンとなった。…
…強烈な個性の持主であった彼らは,既存のあらゆる権威を否定し,経書そのものに没入してその真の精神を体得し,それを現在に生かそうとする理想に燃えていた。范仲淹,欧陽修らはそれを学問的に体系づけるまでにはいたらなかったが,これをうけた周敦頤(しゆうとんい)は,宇宙の生成過程を図式化して説明を加えた《太極図説》を著して,新儒学の青写真を示した。その学説は張載,程顥(ていこう),程頤(ていい)に受け継がれ,南宋の朱熹(子)にいたって大成された。…
…その出典は《易》繫辞伝(けいじでん)の〈易に太極あり,これ両儀を生じ,両儀 四象を生じ,四象 八卦(はつか)を生ず〉である。北宋の周敦頤(しゆうとんい)はこれにもとづいて《太極図説》を著し,〇で象徴される太極から万物が生み出される過程を図式化した。太極はそこでは原初の混沌たる一気を意味したが,南宋の朱熹(しゆき)はこれを〈気〉とは別の範疇(はんちゆう)である〈理〉と解釈しなおし,しかも万物に内在する個別的な理(各具太極)を統(す)べる窮極的存在(統体太極)とみなした。…
※「太極図説」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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