中世に始まり,とくに近世になって最高級の公文書用紙として盛んに漉(す)かれた楮紙(こうぞがみ)。公文書の形式に,将軍など上位の者の命令を,直接その名前を出さずに,下位の者が仰せを奉って書く〈奉書〉という間接的な方法があった。その奉書を記した上等な楮紙をも,しだいに奉書と呼ぶようになった。江戸時代に各藩の御用漉きなどを中心として,数多くの産地で奉書紙を漉き出したが,そのなかで日本一といわれるほど高い評価を得たのは,越前の5ヵ村から漉き出された越前奉書であった。奉書には大きさで大中小,あるいは大広,中広などの違い,装飾方法によって五色奉書,縮緬(ちりめん)奉書,打曇(うちぐもり)奉書,墨流(すみながし)奉書,絵奉書など多くの種類があった。明治時代以後,木版の浮世絵版画用紙など,新しい用途を開拓して,今もなお福井県越前市の旧今立町に伝統的製法が伝えられている。
→越前紙
執筆者:柳橋 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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奉書とも。楮(こうぞ)を原料にした和紙の一種。越前国今立郡大滝郷(近世の五箇)で生産された,紙質がきめ細かでつややかな強い楮紙(ちょし)。奉書とはもともと御教書(みぎょうしょ)・下知(げち)状など上意を奉じて下す命令書のことで,幕府がこの紙を公文書(奉書)として用いたことからこの名がついた。越前奉書が有名だが,やがて技術が伝播し他国でも類似の楮紙が作られ,それらも奉書紙とよばれた。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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