奉書(読み)ほうしょ

精選版 日本国語大辞典 「奉書」の意味・読み・例文・類語

ほう‐しょ【奉書】

〘名〙
古文書の様式の一つ。広く主人の意をうけて従者がみずからの名を署して出す文書をいう。
明月記‐文治四年(1188)四月二四日「入夜権尚書奉書云」
※幸若・しつか(室町末‐近世初)「かたしけなくも北のだい奉書を下し給ふ」
※仮名草子・尤双紙(1632)上「しろき物のしなじな〈略〉加賀の奉書(ホウショ)
※浮世草子・正月揃(1688)五「奉書(ホウショ)のもみ足袋も利感なる事なり」
恋慕ながし(1898)〈小栗風葉〉一「三紋(みつもん)の奉書(ホウショ)の羽織に」
[語誌](1)ふつう、本文書留に「依仰、執達如件」「綸旨如此」のように上位者の意をうけたまわって出す文書であることを明らかにする文言があり、また、日付の下に書かれる名目上の差出人である奉者の位署の右下に「奉」の字を小さく書き加えてあることが多い。
(2)命令を下す上位者の地位・身分によって、綸旨(天皇の奉書)・院宣(上皇)・令旨(りょうじ)(親王など)・御教書(みぎょうしょ)(三位以上)と特別の呼び方をする。
(3)本来、書状と同様の私的な文書として発生したが、上位者の政治的な地位によって内容が公的になる場合は公文書の性質を帯びるようになり、公文書としての側面が分化し固定していった。
(4)綸旨・院宣・御教書などの奉書は上位者の名をとって関白家御教書のように呼ばれるが、その他の場合は奉者の名によって、大江広元奉書・幕府奉行人奉書のように呼ばれる。
(5)後には、文書の一種の美称となり、正しくは直書(じきしょ)である室町将軍の「御判御教書(ごはんのみぎょうしょ)」もその名でよばれた。また、寺院などの文書にも奉書形式にとらわれないものが多い。

ほう‐しょう【奉書】

〘名〙 (「ほうしょ(奉書)」の変化した語)
① 「ほうしょがみ(奉書紙)」の略。〔俚言集覧(1797頃)〕
油地獄(1891)〈斎藤緑雨〉二「羽織は黒の奉書(ホウショウ)に」

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デジタル大辞泉 「奉書」の意味・読み・例文・類語

ほう‐しょ【奉書】

古文書の形式の一。主人の意を受けて従者が下達する文書。天皇・上皇・公卿の意を受けた場合はそれぞれ綸旨・院宣・御教書みぎょうしょとよばれた。
奉書紙」の略。
奉書足袋たび」の略。
奉書つむぎ」の略。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「奉書」の意味・わかりやすい解説

奉書
ほうしょ

主人の意志を伝えるため家臣が発行する文書。身分の高い人が、低い身分の人に対し自分の意志を伝える場合に、本人名の直書でなく家臣に奉書を出させたもので、平安時代以降盛んとなった。「依仰(おうせによって)、執達(しったつ) 如件(くだんのごとし)」などと書き留め、主命であることを表した。奉書は主人の身分によりいろいろの名称でよばれる。天皇の命令で蔵人(くろうど)が出すものを綸旨(りんじ)、上皇・法皇の命令で院臣の出すものを院宣(いんぜん)、天皇・上皇その他貴人の命令で女官の出すものを女房(にょうぼう)奉書、皇后や親王の場合を令旨(りょうじ)、三位(さんみ)以上の公卿(くぎょう)の場合を御教書(みぎょうしょ)という。また検非違使別当(けびいしのべっとう)の別当宣、諸国の知行(ちぎょう)主の出す国宣(こくせん)、橘(たちばな)氏の長者の是定(ぜじょう)宣も奉書である。武家でも奉書は盛んに使われた。鎌倉幕府の関東御教書、六波羅(ろくはら)御教書、鎮西(ちんぜい)御教書、室町幕府の管領(かんれい)奉書、引付頭人(ひきつけとうにん)奉書、奉行人(ぶぎょうにん)奉書、江戸幕府の老中奉書は代表的なものである。このほか鎌倉時代の北条氏、足利(あしかが)氏、室町時代の大名家などでも奉書を発給した。寺院でも仁和寺(にんなじ)門主、延暦寺座主(えんりゃくじざす)、東寺長者などに奉書がみられる。奉書はもと私的内容に使われることが多かったが、しだいに公的内容を取り扱うようになり、とくに幕府では公文書(こうぶんしょ)として用いられた。

[百瀬今朝雄]

奉書紙

奉書に用いる紙を奉書紙といい、略して奉書とよぶ。1712年(正徳2)成立の寺島良安の『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』には「奉書紙は檀紙(だんし)に属し、大小厚薄あり、杉原紙、奉書紙はやや薄く軟らか」とあり、同時代の文献には大奉書、中奉書、小奉書などの種類も記されている。近世に至るまで盛んに使用された奉書は、杉原紙と同様のコウゾ(楮)を原料とした厚手の和紙であった。

 奉書紙の名が文献に初出するのは1573年(天正1)の『尋憲記(じんけんき)』正月27日の条で、越前(えちぜん)(福井県)において奉書紙を購入した旨の記事であるといわれ、そのころからすでに越前国が名産地であったことがうかがえる。越前国五箇(ごか)村(越前(えちぜん)市今立(いまだて)地区)の三田村家は、中世末期から将軍家や国守(こくしゅ)の奉書紙漉(す)き立ての特権が与えられ、江戸時代に至るまで続いた。江戸時代には武家だけでなく、公家(くげ)なども奉書を愛用するようになり、五箇村ではさらに多くの製紙業者が現れて越前奉書の名を世に知らしめた。そのころから奉書の生産は全国的に広がり、1777年(安永6)刊の木村青竹(せいちく)編『新撰紙鑑(しんせんかみかがみ)』には、越前のほかに丹後(たんご)、因幡(いなば)、加賀(かが)、美作(みまさか)、阿波(あわ)、京、土佐(とさ)、備中(びっちゅう)、備後(びんご)、豊後(ぶんご)、筑前(ちくぜん)、筑後(ちくご)、伊予(いよ)、安芸(あき)、長門(ながと)、美濃(みの)の名が記されている。越前奉書の種類には、御前広(ごぜんひろ)(中広)、大奉書(本政(ほんまさ))、中奉書(間政(あいまさ))、小奉書(上判)、色奉書、紋奉書、墨流しがあり、色奉書は五色ある。なお、現在市販されている奉書の多くは木材パルプを原料としている。

[町田誠之]

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改訂新版 世界大百科事典 「奉書」の意味・わかりやすい解説

奉書 (ほうしょ)

古文書の一形式。上の者の意を奉(うけたまわ)って伝える文書の意で,書状の特殊様式。現在の封書の源流である書札様(しよさつよう)文書は,中国の隋・唐代の啓や状という私信から日本風に発展を遂げたもので,その様式は,はじめに要件等の本文,本文の終わる次行に日付,日付の下に差出書,日付の次行上段に充名書という構成を基本にしている。10世紀以前の日本は,仮名消息を別として,私信にまだ中国の書儀に従った啓や状を用いた時代であるが,9~10世紀にその形が前述のような形(啓の一形式)に定着するようになり,文体も10世紀には純漢文体から〈侍(はべる)〉〈給(たまう)〉〈候(そうろう)〉を交える和風漢文体となり,さらに11世紀ごろに書止(かきどめ)文言が,〈恐々謹言〉等に規格化され,日本の書札様文書が完成される。

 他方,日本古来の伝統的な政治の発現形式として,上官が口頭命令である〈宣〉を発し,下司がこれを受けて実行し,あるいは公文書を作成するという形があるが,この関係を最も端的に表す文書が宣旨であった。これと同様の関係で,主人の口頭命令である〈仰(おおせ)〉を受けて,仰を体しながら侍臣がみずからの名において書いた書札を奉書という。奉書の様式的特質としては,前述の書札形式に加えて本文の結びに〈……候ところなり,よって執達(しつたつ)件(くだん)の如(ごと)し〉とか,〈御気色(みけしき)により,執啓件の如し〉のように,仰を奉った旨の奉書文言,それを執行する旨の執達文言がみられることである。このことは,奉書が一般の書札と異なり,はじめから政治的・公的色彩を帯びた文書形式であることを示している。

 奉書のうち,参議,三位以上の官位を帯びる者の仰を奉じた奉書を特に御教書(みぎようしよ)と呼ぶが,御教書を含む奉書を広義の奉書とすれば,御教書を除く比較的低官位の者の仰を奉ずる奉書を狭義の奉書ということができる。また鎌倉時代中期以降,書札様文書が盛行し,公式様(くしきよう)文書や下文(くだしぶみ),下知状(げちじよう)に代わって書札様文書が公文書化すると,院宣綸旨(りんじ),国宣(こくせん),長者宣別当宣,関東御教書,室町幕府御教書のごとく,御教書は書札様の公式的文書を指す語となり,これに対して非公式の文書を指すのに,奉書という語を用いることになる。女房奉書,伝奏奉書,室町幕府奉行人奉書,引付頭人奉書などの手続的な用途に使用される文書がその例である。

 書札様文書においては,信書の内容の秘密保持を目的とする封式を施すこと,さらにみずからを謙遜し,相手に敬意を表する礼的表現を採用する点においても,公式様文書,下文様文書とは著しく異なるところである。この書札の礼的表現の政治的統一をはかったのが,いわゆる書札礼(しよさつれい)である。書札礼は,執達文言の表現(執達,執啓,啓上,言上等),差出書(官,位,氏,姓,名をどれだけ書くか),上所(謹上,謹々上,進上)および脇付等の表現によって,礼の厚薄を示すが,さらに奉書か直状(じきじよう)(直書)かも礼の問題と密接な関係にある。例えば,大臣から地下(じげ)の者に出す書札においては,その身分上の格差が大きすぎて直状は出せず,家司の奉書によって与えられる。また地下に対する院宣,綸旨等においても,奉行の奉書ではなく,その奉行の命によりそのまた家司が奉じた〈院宣〉〈綸旨〉等(奉行御教書)がみられるが,これらはいずれも書札礼の関係で奉書の形をとる文書ということができる。
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百科事典マイペディア 「奉書」の意味・わかりやすい解説

奉書【ほうしょ】

古文書(こもんじょ)の形式の一つ。私人の書状様式の一つとして発生し,平安時代に律令政治の弛緩(しかん)と政治形態の変化に伴って,しだいに公的な文書として用いられるようになった。書状のうち差出者が直接出すのではなく,差出者の侍臣(じしん)・右筆(ゆうひつ)などが主人の意を奉じて出すものを一括していい,綸旨(りんじ)・院宣(いんぜん)・令旨(りょうじ)・御教書(みぎょうしょ)などを含む。鎌倉中期以降,御教書が公式の文書をさす語となったのに対し,奉書は非公式の文書をさすようになる。
→関連項目大内家壁書折紙(書誌)感状知行目録張紙値段奉書紙

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「奉書」の意味・わかりやすい解説

奉書
ほうしょ

古文書の一様式。一般に,近侍者が上位者の意を奉じて下達する文書をいい,平安時代以降に盛んになった。上位者が天皇の場合は綸旨 (りんじ) ,上皇の場合は院宣 (いんぜん) ,親王の場合は令旨 (りょうじ) ,三位以上の場合は御教書 (みぎょうしょ) といわれた。鎌倉時代には幕府諸機関から諸々の御教書 (執権・連署,六波羅・鎮西両探題による) ,奉書 (幕府の政所,問注所,引付方などによる) が発給された。室町時代には,将軍家御教書 (執事もしくは管領による) をはじめ,頭人 (引付方頭人など) や奉行人の奉書がある。さらに鎌倉府御教書 (関東管領が関東公方の意を奉じて出す) とか有力守護大名家における年寄奉行の奉じる奉書の発給も現れた。奉書形式文書には,日付の下に近侍者 (右筆) が署判を加えるだけのものと,さらに上位者が袖判を加える場合がみられる。安土桃山,江戸時代では,豊臣氏の奉行奉書,大老奉書,徳川氏の年寄衆奉書もこの系列に属する。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「奉書」の解説

奉書
ほうしょ

私文書の一様式で,差出人の身分が高い場合,差出人が直接書かず,側近が主人の意思を承って書く文書。差出人が直接書く私文書を直状(じきじょう)という。平安時代以降しだいに公的なものに変化した。天皇の意思を承って出した奉書は綸旨(りんじ),上皇の場合は院宣(いんぜん),親王の場合は令旨(りょうじ),三位以上の貴族の場合は御教書(みぎょうしょ)とよばれた。当初は公家の間で使われたが,鎌倉時代以降,武士の間でも使われるようになり,将軍の御教書などが出された。

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旺文社日本史事典 三訂版 「奉書」の解説

奉書
ほうしょ

古文書の一形式で,上位の人の意をうけて,その命令を伝える文書
綸旨 (りんじ) ・院宣 (いんぜん) ・令旨 (りようじ) ・御教書 (みきようじよ) ・下知状 (げちじよう) など。鎌倉幕府以後には,政所 (まんどころ) ・侍所の頭人の出すものも奉書といい,江戸時代には将軍の内書を添えて出すものもいう。用紙としては越前産のきめの細かい紙が有名で,この紙自身も奉書(奉書紙ともいう)と呼ばれる。

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世界大百科事典(旧版)内の奉書の言及

【書下】より

…鎌倉時代以降,一般に侍臣が主人の命をうけ,あるいはあらかじめ与えられた職務権限に基づき,みずからの直状(じきじよう)(直書)の形式で部下に発給する文書。主人の命令の要旨を引用し,その旨を奉じたことを表す文言(奉書文言)をもつ侍臣の書札を奉書というのに対し,書下は主人の指示の有無にかかわらず侍臣の職務上の権限と責任において発するもので,奉書文言を含まない書札である。鎌倉時代の基本的な法律用語を説明した《沙汰未練書》には〈書下トハ執筆奉行奉書也〉とあるが,この場合の“奉書”とは主人(鎌倉将軍)の命を奉る側面を強調したものである。…

【判物】より

…また佐藤は〈直状(判物)〉という表現をしばしば用いており,直状と判物の区別を明らかにしていない。いずれにしても武家文書において奉行・昵近衆・年寄などが主人の仰せをうけたまわって発給する奉書と,この判物(直書や書下を含めて)は対比して考えられ,また戦国時代,江戸時代では,奉書および印判状(朱印状,黒印状)と対比されよう。いずれも判物のほうが,相手をより敬った丁重な文書である。…

【御教書】より

…〈みきょうじょ〉と読む説もある。参議,三位(公卿)相当以上の貴人の仰(おおせ)を奉じた奉書をいう。中国の唐制で,親王,内親王の命を下達する文書を〈教〉ということから,日本ではこれを準用して貴人の仰を〈教〉といい,仰を文書としたものを〈教書〉といった。…

※「奉書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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