女の一生(読み)オンナノイッショウ

デジタル大辞泉 「女の一生」の意味・読み・例文・類語

おんなのいっしょう〔をんなのイツシヤウ〕【女の一生】

《原題、〈フランスUne Vieモーパッサン長編小説。1883年刊。純真な女主人公ジャンヌの結婚生活にかけた夢が、夫の裏切り、息子の放蕩ほうとうによって打ち砕かれていく幻滅の一生を描く。フランス自然主義文学の代表作
山本有三の小説。昭和7~8年(1932~1933)発表。夫には先だたれ、一人息子に背かれながらも、後半生を積極的に生きようとする女性を描く。
森本薫の戯曲。5幕。昭和20年(1945)初演。明治・大正・昭和の3代、家のために献身的に働きながらも、報われることのない女性の姿を描く。

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精選版 日本国語大辞典 「女の一生」の意味・読み・例文・類語

おんなのいっしょうをんなのイッシャウ【女の一生】

  1. [ 一 ] ( 原題[フランス語] Une Vie ) 小説。モーパッサン作。一八八三年発表。世間知らずな地方貴族の娘ジャンヌの一生を描いたフランス自然主義文学の代表作。
  2. [ 二 ] 小説。山本有三作。昭和八年(一九三三)刊。積極的に生きようとする女性御木允子の一生を描く。
  3. [ 三 ] 戯曲。森本薫作。五幕。昭和二〇年(一九四五)初演。主人公布引けいの姿を通して、明治から昭和の激動の時代を生きる女性像を描いた作品。杉村春子文学座の当たり劇となった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「女の一生」の意味・わかりやすい解説

女の一生(モーパッサンの小説)
おんなのいっしょう
Une Vie

フランスの小説家モーパッサンの長編小説。1883年刊。原題は「ある一つの生涯」。長編小説としては最初のもので、これによって作家としての名声が確立された。ノルマンディーの地方貴族ル・ペルチュイ・デ・ボー男爵夫妻のひとり娘ジャンヌが、修道院経営の女子寄宿学校での教育も終わって、田舎(いなか)の邸(やしき)に父母といっしょに住み始めるところから物語が始まる。ただし物語といっても、19世紀なかばごろまで一般的だった波瀾(はらん)万丈の冒険小説、恋愛小説にみられるような事件は皆無といっていい。近隣の青年貴族ジュリアンとの出会いと結婚、父と母の死、母の生前の情事の発見、夫の浮気と死、友人の裏切り、ひとり息子ポールがパリで知り合った女性に生ませた孫の引き取り。――そうしたいわば社会のあちこちにありそうな事件をジャンヌは一つ一つくぐり抜けながら、底抜けに快活で運動も大好きな、人を疑うことを知らなかった娘から、人生に疲れきった女性へと変貌(へんぼう)していく。19世紀後半のフランス社会内部での階級変動、機械文明進歩、ルソー的楽観主義破綻(はたん)、そうした背景のうえにたった小説で、モーパッサンの自然主義、ペシミズムをよく表している。

宮原 信]

『『女の一生』(新庄嘉章訳・新潮文庫/杉捷夫訳・岩波文庫)』


女の一生(森本薫の戯曲)
おんなのいっしょう

森本薫(かおる)の戯曲。5幕。1945年(昭和20)4月、文学座が久保田万太郎演出により東京・渋谷の東横映画劇場で初演。46年、作者自身が改訂を加え、文明社から単行本として刊行。日露戦争の勝利から第二次世界大戦による敗戦まで、明治・大正・昭和の3代にわたって「家」を守り抜いた女主人公(布引(ぬのびき)けい)の一代記的ドラマで、文学座の代表作だけでなく、初演以来主演し続けた杉村春子の当り役として、上演回数は700回を超える。中国貿易で財をなした堤家に拾われた孤児けいは、女中として働くうちに当主しずに見込まれ、次男栄二への思いを捨てて、長男伸太郎の妻となる。けいは、無能な夫にかわって家業をもり立てるが、かえって周囲の人々や夫から離反され、ひとり苦難に耐える。やがて敗戦。堤家の焼け跡にたたずむけいは、大陸から帰った栄二に再会する。60年(昭和35)第1回訪中新劇団のレパートリーにも選ばれ、各地で好評を博した。

[大島 勉]

『『現代日本文学大系83』(1970・筑摩書房)』


女の一生(山本有三の小説)
おんなのいっしょう

山本有三の長編小説。1932年(昭和7)10月から33年6月まで『朝日新聞』に連載されたが、作者が検挙にあい中断。これに補筆して同年11月、中央公論社より刊行。初恋に破れ、女医を目ざして医学校に進んだ御木允子(みきまさこ)は、妻のある高校教師公荘(くじょう)と恋に陥り、私生児を出産する。やがて、妻に死別した彼と結婚するが、高校生になったひとり息子允男(まさお)は左翼運動に入って家を出る。夫にも先だたれながら、悲しみを乗り越えてふたたび女医として生きようとする彼女の決意を「第二の出産」と位置づけ、「肉体的の出産によって女は母になる。そしてもう一つの出産によって母おやは人間になるのだ」という主題で女の半生を描いた作品。

[宗像和重]

『『女の一生』(新潮文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「女の一生」の意味・わかりやすい解説

女の一生 (おんなのいっしょう)

森本薫の戯曲。5幕7場。1945年(昭和20)4月文学座により初演,46年文明社刊。明治から大正,昭和にわたる布引けいの半生の歩みを,日本の敗戦までの激動の歴史のうちにとらえる。日露戦争の旅順陥落にわきかえる新年に,一代で産をなした富裕な貿易商堤家の屋敷に迷いこんだ孤児の少女が,女中にはいりやがて求められて長男と結婚,女実業家として一家の支柱となり献身する。〈誰が選んでくれたのでもない,自分で選んで歩きだした道ですもの〉というよく知られたせりふに象徴されるけいの境遇,堤家の衰運は,そのまま敗戦にひた走る近代日本の姿でもある。森本は病床にあってその初演台本を戦後版に改訂,まもなく世を去った。
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デジタル大辞泉プラス 「女の一生」の解説

女の一生〔モーパッサン〕

①ギ・ド・モーパッサンによる長編小説。1883年刊行。
②①を原作とした1953年公開の日本映画。監督・脚本:新藤兼人、撮影:伊藤武夫。出演:乙羽信子(第4回ブルーリボン賞主演女優賞)、千田是也、英百合子、宇野重吉、山内明、進藤英太郎(第4回ブルーリボン賞助演男優賞)、杉村春子ほか。
③①を原作とした1967年公開の日本映画。監督・脚色:野村芳太郎、脚色:山田洋次、森崎東、撮影:川又昂。出演:岩下志麻、宇野重吉、長岡輝子、田村正和、栗塚旭、左幸子(第22回毎日映画コンクール女優助演賞)、竹脇無我ほか。
④①を原作としたTBS系列放映による日本の昼帯ドラマ。花王愛の劇場。1979年1~3月放映(全45回)。出演:和泉雅子、長谷川哲夫ほか。

女の一生〔曲名〕

日本のポピュラー音楽。歌は女性演歌歌手、三笠優子。1987年発売。作詞:鳥井実、作曲:伊藤雪彦。

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百科事典マイペディア 「女の一生」の意味・わかりやすい解説

女の一生【おんなのいっしょう】

モーパッサンの長編小説。原題は《Une vie》で1883年発表。結婚の幻滅,夫の裏切りと死,息子への失望等を通して,希望と絶望の交錯する小貴族の娘ジャンヌの一生を,ノルマンディーの自然を背景に描いた自然主義の一代表作。ペシミスムの影の濃い作品で,緊密な外的描写で過酷な人生の真実を示そうとした。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「女の一生」の意味・わかりやすい解説

女の一生
おんなのいっしょう

森本薫の戯曲。5幕。 1945年4月初演。座付作者として文学座のために書いたもので,森本の最後の作品であり,代表作ともなった。女中から嫁になり,家のために自我を殺して生抜く女の一生を描く。情報局委嘱作品という制約のなかで書かれたため,プロローグとエピローグに戦時色があったが,第2次世界大戦後その部分のみが作者によって書直され,現在上演されているもの (戌井市郎改訂) の底本となった。初演以来,杉村春子の代表作として上演回数は 900回をこえる。

女の一生
おんなのいっしょう
Une Vie

フランスの作家モーパッサンの代表的小説。 1883年刊。 12歳のときから5年間修道院で育った清純で夢想的な少女ジャンヌを主人公とし,強欲で淫蕩な青年ジュリアンとの結婚,夫の裏切りと死,息子ポールに対する失望,貧困など,希望と絶望の織りなす1人の女性の生涯を,流麗な筆致で描写したもの。相次ぐ転変を通じて,作者の洞察した人間の孤独がにじみ出てくる。

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