フランスの小説家モーパッサンの長編小説。1883年刊。原題は「ある一つの生涯」。長編小説としては最初のもので、これによって作家としての名声が確立された。ノルマンディーの地方貴族ル・ペルチュイ・デ・ボー男爵夫妻のひとり娘ジャンヌが、修道院経営の女子寄宿学校での教育も終わって、田舎(いなか)の邸(やしき)に父母といっしょに住み始めるところから物語が始まる。ただし物語といっても、19世紀なかばごろまで一般的だった波瀾(はらん)万丈の冒険小説、恋愛小説にみられるような事件は皆無といっていい。近隣の青年貴族ジュリアンとの出会いと結婚、父と母の死、母の生前の情事の発見、夫の浮気と死、友人の裏切り、ひとり息子ポールがパリで知り合った女性に生ませた孫の引き取り。――そうしたいわば社会のあちこちにありそうな事件をジャンヌは一つ一つくぐり抜けながら、底抜けに快活で運動も大好きな、人を疑うことを知らなかった娘から、人生に疲れきった女性へと変貌(へんぼう)していく。19世紀後半のフランス社会内部での階級変動、機械文明の進歩、ルソー的楽観主義の破綻(はたん)、そうした背景のうえにたった小説で、モーパッサンの自然主義、ペシミズムをよく表している。
[宮原 信]
『『女の一生』(新庄嘉章訳・新潮文庫/杉捷夫訳・岩波文庫)』
森本薫(かおる)の戯曲。5幕。1945年(昭和20)4月、文学座が久保田万太郎演出により東京・渋谷の東横映画劇場で初演。46年、作者自身が改訂を加え、文明社から単行本として刊行。日露戦争の勝利から第二次世界大戦による敗戦まで、明治・大正・昭和の3代にわたって「家」を守り抜いた女主人公(布引(ぬのびき)けい)の一代記的ドラマで、文学座の代表作だけでなく、初演以来主演し続けた杉村春子の当り役として、上演回数は700回を超える。中国貿易で財をなした堤家に拾われた孤児けいは、女中として働くうちに当主しずに見込まれ、次男栄二への思いを捨てて、長男伸太郎の妻となる。けいは、無能な夫にかわって家業をもり立てるが、かえって周囲の人々や夫から離反され、ひとり苦難に耐える。やがて敗戦。堤家の焼け跡にたたずむけいは、大陸から帰った栄二に再会する。60年(昭和35)第1回訪中新劇団のレパートリーにも選ばれ、各地で好評を博した。
[大島 勉]
『『現代日本文学大系83』(1970・筑摩書房)』
山本有三の長編小説。1932年(昭和7)10月から33年6月まで『朝日新聞』に連載されたが、作者が検挙にあい中断。これに補筆して同年11月、中央公論社より刊行。初恋に破れ、女医を目ざして医学校に進んだ御木允子(みきまさこ)は、妻のある高校教師公荘(くじょう)と恋に陥り、私生児を出産する。やがて、妻に死別した彼と結婚するが、高校生になったひとり息子允男(まさお)は左翼運動に入って家を出る。夫にも先だたれながら、悲しみを乗り越えてふたたび女医として生きようとする彼女の決意を「第二の出産」と位置づけ、「肉体的の出産によって女は母になる。そしてもう一つの出産によって母おやは人間になるのだ」という主題で女の半生を描いた作品。
[宗像和重]
『『女の一生』(新潮文庫)』
森本薫の戯曲。5幕7場。1945年(昭和20)4月文学座により初演,46年文明社刊。明治から大正,昭和にわたる布引けいの半生の歩みを,日本の敗戦までの激動の歴史のうちにとらえる。日露戦争の旅順陥落にわきかえる新年に,一代で産をなした富裕な貿易商堤家の屋敷に迷いこんだ孤児の少女が,女中にはいりやがて求められて長男と結婚,女実業家として一家の支柱となり献身する。〈誰が選んでくれたのでもない,自分で選んで歩きだした道ですもの〉というよく知られたせりふに象徴されるけいの境遇,堤家の衰運は,そのまま敗戦にひた走る近代日本の姿でもある。森本は病床にあってその初演台本を戦後版に改訂,まもなく世を去った。
執筆者:今村 忠純
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