創始期の歌舞伎の名称。広義には阿国(おくに)歌舞伎をも含めて、主演者が女性である歌舞伎踊の芸能をよぶ名であるが、普通は阿国歌舞伎以後、これを模倣して演じられるようになった遊女による歌舞伎踊、いわゆる「遊女歌舞伎」をさしてよぶことが多い。1605年(慶長10)以後ほとんど全国的に流行し、1629年(寛永6)に風俗を乱すとの理由で禁じられるまで続いた。この時代はたまたま京都、大坂、江戸をはじめ各地方の都市に遊里が固定した時代であり、それら遊女屋が座を組織して売色の効果的な手段として興行したものである。たとえば、『東海道名所記』に「六条の傾城町(けいせいまち)より佐渡島といふもの、四条川原に舞台をたて、けいせい数多(あまた)出して舞をどらせけり」というのがその性格であった。当時新渡来の三味線を抱えた女太夫(たゆう)(和尚(おしょう)とよんだ)が舞台中央に、クジャクの羽根やトラの皮をかけた豪華な椅子(いす)に座って弾じると、これを取り巻く多数の遊女たちが、声をそろえて歌を歌い、振りをそろえて扇情的な踊りを踊った。張見世(はりみせ)的なレビューと思えばよい。佐渡島正吉、村山左近、岡本織部、小野小太夫、出来島隼人(はやと)、杉山主殿(たのも)、幾島丹後守(いくしまたんごのかみ)らの遊女は、歌舞伎踊によって名を残した。
女歌舞伎は新興の城下町、門前町、鉱山町、港湾町などに下り、またその地に発生するものもあって盛行を示した。諸国の大名にもこれを愛好する者が多く、浅野幸長(よしなが)、伊達政宗(だてまさむね)、加藤清正らが酒席に歌舞伎太夫を招き、芸を演じさせた記録がある。近世初頭のキリシタン関係の史料にも女歌舞伎の太夫を酒席にはべらせた記事が散見される。女歌舞伎の小屋の構造、観客の身分、男女風俗、舞台で行われている芸態などは、数多く残っている四条河原図や洛中(らくちゅう)洛外図などに余すところなく描き出されている。1629年(寛永6)の女性芸能禁止のあとは、並行して行われていた若衆の芸能が押し出される形となり、若衆(わかしゅ)歌舞伎と称されるようになった。
[服部幸雄]
出雲のお国が創始した歌舞伎踊をまねた,遊女や女芸人の歌舞伎をいう。お国自身の歌舞伎も女歌舞伎であるが,一般には区別している。1603年(慶長8)お国が歌舞伎踊で評判をとるとすぐに,歌舞伎を称する女芸人の座が多く生まれ,諸国へも下った。なかで,遊女屋が経営する歌舞伎の座を遊女歌舞伎と呼ぶ。京では六条三筋(みすじ)町の遊女屋が四条河原で,江戸では吉原の開設当初は吉原の中に,のちには中橋でそれぞれ舞台を設け,男装したスター級の遊女である太夫(和尚とも呼んだ)の歌や踊りを中心に競って歌舞伎を興行した。お国歌舞伎との第一の違いは,当時最新の楽器である三味線をスターが弾いていることで,50~60人もの遊女を舞台へ登場させ,虎や豹の毛皮を使うなど,いっそう豪奢な舞台ぶりに,数万人もの見物を集めたという。佐渡嶋,又市,道喜(とうき)などの遊女歌舞伎の座,また,幾島丹後守,村山左近などのスターが知られていた。1615-29年(元和1-寛永6)ごろが最盛期であった。これらの女たちは歌舞伎女とも呼ばれ,大名たちが買いとって領国で興行させたり,座を組んで巡業したりしていたが,女たちをめぐっての喧嘩などが絶えなかったため,しばしば禁じられている。29年に女芸人のすべてに対する禁令が出されてからしだいに姿を消した。
執筆者:小笠原 恭子
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江戸前期,出雲のお国の人気に追随した遊女や女芸人による歌舞伎。多くは遊女のかぶき踊であったことから,遊女歌舞伎の称がある。本業の張見世を兼ねた遊女歌舞伎は,規模ではお国を上回り,遊里に普及していた三味線を用いたりしたが,遊女の総踊が眼目で,戯曲性の点では退歩といえる。女歌舞伎は京のみならず諸国に伝播し,一般庶民はもとより大名・武家にも異常な人気を博した。しかし遊女をめぐる喧嘩口論で風俗紊乱を招き,各地に禁令がだされた後,1629年(寛永6)幕府に禁止された。以後明治期まで女優のない社会が続く。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
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