猿若(読み)サルワカ

デジタル大辞泉 「猿若」の意味・読み・例文・類語

さるわか【猿若】


初期歌舞伎で、こっけいな物まねや口上の雄弁術などを演じた役柄。道化方どうけがたの前身。
1を主人公とした歌舞伎狂言または所作事。諸種の演目があったが、中村座寿狂言として伝わる「猿若」の台本は、現存で最古の歌舞伎脚本とされる。
江戸時代の大道芸人で、歌舞伎の猿若をまねて、こっけいな一人狂言をして歩いた者。
江戸歌舞伎の創始者で、猿若の芸を専門とした初代中村勘三郎およびその一族の別名。

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精選版 日本国語大辞典 「猿若」の意味・読み・例文・類語

さるわか【猿若】

[1] 〘名〙
① 初期の歌舞伎の役柄の一つ。道外方(どうけがた)の前身。江戸時代、阿国歌舞伎の頃、滑稽なしぐさを演じた者の名に由来するという。道化役
※慶長見聞集(1614)二「取分猿若出て色々様々の物まねするこそおかしけれ」
② ①を主人公とした滑稽な内容の歌舞伎狂言、または所作事(しょさごと)をいう。諸種の演目があったが伝わらず寛永(一六二四‐四四)頃に初代中村(猿若)勘三郎が創始し、猿若座(中村座)の寿狂言または家狂言として伝えられた「猿若」は、歌舞伎最古の脚本とされている。〔雍州府志(1684)〕
③ ①をまねて、滑稽なしぐさをして歩く大道芸人をいう。
※俳諧・誹諧用意風躰(1673)「わけなき事をいひ出るは、猿若(サルワカ)などのたはけて人におかしがらるるたぐひとや申べからん」
④ 軽薄な若者をののしっていう語。猿松。
浄瑠璃・曾我虎が磨(1711頃)下「五郎丸とやらいふさる若に首討たるる」
[2] 江戸歌舞伎の創始者初代中村(猿若)勘三郎およびその一族の称。また、その一座
評判記・役者賭双六(1717)江戸「さかい町猿若勘三郎座」

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改訂新版 世界大百科事典 「猿若」の意味・わかりやすい解説

猿若 (さるわか)

歌舞伎の役柄または狂言の名。(1)お国歌舞伎時代に舞台に登場した道化役で,扮装は粗末な青系統の単衣に脚絆ばき,手拭ようの布で頰被りの下人風で現れ,〈魯鈍〉な性格を演じた。舞台の猿若は唐団扇を持ち,床几運びをすることもあり,そこには,猿若の芸能と風流踊との関連が示されていると思われる。猿若の演技としては,写実的物真似芸や雄弁術,獅子踊木遣音頭などをみせた。また,民俗芸能や大道芸の中にも〈猿若〉と称する道化役がある。(2)1624年(寛永1)に猿若(中村)勘三郎が創設した猿若座(のち中村座)には,由緒ある家狂言として《猿若》という狂言が伝承されている。主人にかくれて伊勢参りをした大名の下人が,主人の叱責のがれに流行(はやり)歌まじりで道中話をするというものである。能狂言の構成を借りた中に,茶屋女とたわむれる仕方話,木遣音頭,獅子踊といった猿若の芸尽しが盛り込まれている。本来猿若狂言は中村座の独占ではなかった。寛文(1661-73)から元禄(1688-1704)にかけて,《猿若》のほかにも《女猿若》《浮世猿若》《栄花猿若》《うた猿若》《吉原女猿若》などの猿若狂言の演目が《松平大和守日記》にみられる。やがて,猿若狂言は発展性を失い,一方,道化の技芸が進むにつれて,道化役としての猿若は消滅していく。その役柄は,野郎歌舞伎時代の〈道外方〉に継承され,固定化した猿若狂言のみが残ることになる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「猿若」の意味・わかりやすい解説

猿若
さるわか

初期歌舞伎(かぶき)の役柄および狂言の名。

(1)初期の女歌舞伎に登場した道化役。粗末な青色系統の単衣(ひとえ)を着け、黒の脚絆(きゃはん)・白足袋(しろたび)を履き、手拭(てぬぐい)のような布で頬(ほお)かむりするといった独特な扮装(ふんそう)をし、唐団扇(とううちわ)を持った。舞台では、主役が扮する歌舞伎者の下人の役どころで登場し、木遣(きやり)の音頭取り、獅子(しし)踊り、雄弁術、滑稽(こっけい)な物真似(ものまね)芸など雑多な芸をこなした。女太夫(たゆう)(和尚(おしょう)といった)の登場について、床几(しょうぎ)や持ち物を運ぶこともあった。この役柄が野郎歌舞伎時代の「道外方(どうけがた)」に受け継がれた。なお、民俗芸能や大道芸にも、猿若と名づける道化役や物真似芸を見せる芸人がいたことが知られる。

(2)1624年(寛永1)に猿若勘三郎が創始した猿若座(後の中村座)に、由緒のある「寿(ことぶき)家の狂言」として「猿若」という狂言を伝承していた。これは、主人に隠れて伊勢(いせ)参りをした下人が、主人の大名の叱責(しっせき)を逃れようと流行唄(はやりうた)まじりで道中話をする筋の単純な狂言で、そのなかに木遣音頭や獅子踊りなど、初期の猿若が得意にした芸が取り入れてある。

[服部幸雄]

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百科事典マイペディア 「猿若」の意味・わかりやすい解説

猿若【さるわか】

女歌舞伎若衆歌舞伎における道化役,またはこれを専門とした俳優のこと。なお《猿若》という脚本は,若衆歌舞伎で猿若を務め,猿若勘三郎と呼ばれた初世中村勘三郎が得意としたもので,現在伝わる最古の歌舞伎脚本。ほかに秋田・福島県に同名の民俗芸能が現存。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「猿若」の意味・わかりやすい解説

猿若
さるわか

阿国歌舞伎発生当初の歌舞伎の道化方の名称。名古屋山三 (→名古屋山三郎 ) の家来として登場し,魯鈍な役柄と,ものまね,雄弁術を売り物にした。

猿若
さるわか

猿若座 (→中村座 ) の寿狂言,家の狂言。大名の下人の猿若が,主人に隠れて伊勢参りをし,その言いわけに主人に道中の話を流行歌などの諸芸を折込んで聞かせるもの。寛文から元禄にかけて『女猿若』『浮世猿若』などが上演された。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「猿若」の解説

猿若
さるわか

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
寛永10(江戸・中村座)

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世界大百科事典(旧版)内の猿若の言及

【お国歌舞伎】より

…流行の先端を行く衣装や黄金造りの太刀,黄金の十字架,水晶の数珠などを身につけたお国の華麗なかぶき姿は,当時の豪奢な好みを反映して,ただちにこれをまねる女芸人が続出した。初期のお国の歌舞伎は,この現代風俗のものまねに,〈猿若(さるわか)〉と呼ばれた,司会役もかねた道化役の滑稽芸をからませ,あいだに狂言師による能狂言や,女たちの小歌踊をはさんだものであったが,のち,かぶき者として名を売り,喧嘩で斬り死にした名古屋山三郎の亡霊を登場させるなどの演出も工夫したものと思われる。1612‐13年(慶長17‐18)ごろまで行われていた。…

※「猿若」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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