家庭医学館 「妊娠の徴候と診断法」の解説
にんしんのちょうこうとしんだんほう【妊娠の徴候と診断法】
●月経(げっけい)の停止
妊娠を自覚する第一の徴候は、月経が止まることです。
月経の周期は個人差がありますが、比較的順調な人では約1週間以上、不順な人でも約2週間以上遅れた場合は、まず妊娠を疑います。
ただ、妊娠しているにもかかわらず、予定月経のころに少量の出血をみることがあり、ときには、これを月経とまちがえることがあります。
●乳房(にゅうぼう)の張りとつわり症状
つぎに、妊娠の自覚徴候として、乳房の張りと軽い痛みを感じることがあり、ときには、乳くびの感覚が敏感になって、色がふつうのときより少し黒ずんで見えることもあります。
さらに、予定の月経がこないまま約1週間から2週間くらい経過すると、胃がもたれる感じや、むかむかする吐(は)き気(け)が現われてきます。
とくに、この吐き気は、朝起きたときや空腹時に多く、食物を食べることによって軽くなったり、消えてしまうことがあります。
これが、いわゆるつわり(「つわり(妊娠悪阻(おそ))」)と呼ばれている症状です。
このつわり症状は、多くの人では軽く経過するものですが、ときには非常に強くて、食物を摂取することができず、体重の減少が著しい場合があります。このようなときは、必ず医師に相談することがたいせつです。
しかし、乳房の張りやつわり症状は、妊娠すれば必ず現われるというわけではなく、なかにはまったく感じない人もいます。
●高温期が3週間以上続く
基礎体温をつけている人の場合では、高温期が3週間以上続いているときは、まちがいなく妊娠と判断してよいでしょう。
◎市販の妊娠検査薬の利用と注意
尿で妊娠を診断する妊娠検査薬が、数多く市販されています。
この検査方法は、尿の中に出てくるホルモンを検出することによって反応が現われ、それをもとに、妊娠しているかどうかを診断するものです(コラム「市販の妊娠検査薬の作用のしくみ」)。
しかし、妊娠がわかっても、それが正常の妊娠なのか異常な妊娠なのかは、病院の検査を受けてみないと判断できません。
ですから、市販の妊娠検査薬は、あくまでも妊娠の補助診断法と考えて利用するようにしてください。
◎医師の診断方法
●問診を行なう
医師は、最終月経の開始日と終了日、月経周期の整不整(順調かどうか)とおおよその日数、月経時の出血の量、月経時の状態、初潮の年齢、つわり症状の有無と最初におこった日およびその強さの程度、妊娠していないときと比べて変わった徴候の有無、いままでかかったことのあるおもな病気、家系的な病気の有無、妊娠経験の有無、流産(りゅうざん)・早産(そうざん)・死産(しざん)の経験の有無、いままで経験した妊娠・分娩(ぶんべん)についての異常の有無などを聞いて、診断の基礎とします。
●尿で妊娠反応を検査する
尿をとり、妊娠検査薬で妊娠を確認します。これを妊娠反応といいます。
最近の検査薬は非常に感度がよく、予定月経を数日すぎれば、ほぼ100%陽性を示します。
この妊娠反応は、受精卵(じゅせいらん)が子宮内膜(しきゅうないまく)に着床(ちゃくしょう)して妊娠が成立すると、その表面に絨毛(じゅうもう)という組織が発育し、そこから絨毛性ゴナドトロピンというホルモンが分泌(ぶんぴつ)され、妊婦の尿中に出てくるので、尿検査で妊娠の診断ができるのです。
この方法を、免疫学的(めんえきがくてき)妊娠診断法といい、妊婦の尿と特定の試薬を混合し、その反応をみて、妊娠の有無を診断します。
この方法は、非常に簡単で、かつ短時間で結果を得ることができるのでたいへん便利です。しかし、重要なことは、この検査だけで正常な妊娠か、異常な妊娠かの判断をすることはできないということです。
●内診による腟(ちつ)および子宮の状態の確認
医師は、腟鏡(ちつきょう)を用いて、腟内や子宮の入り口の観察を行ない、暗紫色への色調の変化および出血の有無などを調べます。また、一方の手指を腟内に挿入し、他方の手を腹部にあてて、子宮の大きさやかたさ、動きなどを確認します。
●超音波診断装置による検査
超音波診断装置によって、妊娠初期から、その情報を得ることができます。
超音波診断の方法には、腹部にプローブ(超音波発振器)をあてて検査する方法(経腹的方法)と、腟内にプローブを挿入して検査する方法(経腟的方法)とがあります。
妊娠初期には、経腟的方法がより多く使用されます。この方法により、子宮の中に胎嚢(たいのう)という、羊水(ようすい)や胎児の入った袋があるかどうか、胎児の心拍動がみえるかどうか、さらに、胎児の大きさと数などの情報を得ることができます。