六訂版 家庭医学大全科 「妊娠の診断」の解説
妊娠の診断
にんしんのしんだん
Diagnosing pregnancy
(女性の病気と妊娠・出産)
妊娠の診断とは、妊娠していること、つまり胎児が女性の体内に存在していることを証明することです。この証明方法には、妊娠の可能性を示すものと、絶対に妊娠していることを示すものとがあります。現代の産婦人科診療では、医師は、後者の方法を用いて妊娠診断をしています。
妊娠の可能性を示すもの
①月経が止まる
妊娠が成立すると、
しかし、もともと月経が不順な女性はもちろん、順調な女性でも、妊娠とは無関係に、急に排卵が止まって無月経になることがあり、無月経がただちに妊娠を示すものではありません。
②吐き気、
妊娠すると、多くの女性につわりが起こります。つわりは、妊娠に伴って、
③
子宮内で胎児が動くこと(胎動)を女性が感じるのは、妊娠20週ころからです。胎動は妊娠の可能性を示しますが、自覚の段階では、あくまでも可能性にすぎません。妊娠を強く願う女性では、腸のぜん動を胎動と勘違いすることがあるので、注意が必要です。
④腹部が
妊娠に伴い、子宮は大きくなってくるので、妊娠16週ころから、子宮の増大は腹部の張りやふくらみとして観察できます。したがって、無月経に伴って、腹部がふくらんでいる場合は妊娠を疑うべきです。しかし、空気をのみ込んで腹部がふくらむ
⑤女性性器の変化
妊娠すると子宮は大きく、軟らかくなり、形も西洋ナシ形から卵円形へと変化します。また、子宮
昔は、無月経とともにこのような症状が観察されると、産婦人科医は妊娠と診断していました。しかし、これらの症状は他の婦人科疾患や骨盤の充血でも起こることがあり、妊娠を100%示すものではありません。
⑥尿妊娠反応および基礎体温の高温相持続
妊娠が成立すると、受精卵から胎盤を形成する
現在行われている検査は、免疫反応を利用した免疫学的尿妊娠反応です。hCGと特異的に結合する蛋白(抗体)と尿中のhCGを反応させ、結合したhCG抗体複合体を、酵素発色反応などで検査する方法です。最近は、抗体の感度と特異性を向上させた新しい検査キットが市販されていて、月経予定日を1日過ぎただけの段階でも、妊娠を調べることが可能になりました。
ただし、尿妊娠反応はあくまでも、体内にhCGを分泌するものがあることを示すだけであり、妊娠でなくても、絨毛性腫瘍などのhCG産生腫瘍があると反応が陽性になります。
絶対に妊娠していることを示すもの
①超音波断層法
妊娠を知る確実な診断法は超音波断層法です。超音波断層検査で子宮内を画像診断すると、妊娠していることを示す袋(
胎嚢は
超音波断層法は、単に妊娠が成立しているかどうかを診断するだけでなく、流産や子宮外妊娠の診断にも用いられます。出血、腹痛などの流産の症状がなくても、妊娠週数が十分であるにもかかわらず子宮内に胎児の心拍が確認できなければ、流産と診断されます。
また、妊娠反応が陽性でも子宮内に胎嚢が存在せず、子宮外の場所に胎嚢が存在している場合は、子宮外妊娠と診断されます。
②
母体の腹壁をとおして胎児の心音が聞こえれば、胎児が存在していることが示され、妊娠と診断できます。超音波ドプラー検査を行えば、妊娠12週ころから、胎児心拍を音に変換して検知できます。
③胎動の他覚
胎動を妊婦本人ではなく、第三者が検知した場合は、母体内に確実に胎児が存在します。
胎児心音の検出や胎動の他覚的認知(本人の自覚ではない)も、確実に妊娠していることを示す所見ですが、この認知は胎児がある程度育ってからでないと不可能であり、妊娠の早期診断には使えない方法です。
藤井 知行
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報