家庭医学館 の解説
にんしんちゅうのちゅういすべきしょうじょうとたいさく【妊娠中の注意すべき症状と対策】
◎腹痛
◎めまい・動悸(どうき)
◎発熱
◎便秘
◎むくみ
◎出血
妊娠の時期や出血の程度、痛みなどの随伴症状の有無によって、さまざまな原因が考えられますが、妊娠期間中に出血があった場合には、まずは異常のサインと考え、病院を受診することが必要でしょう。
●妊娠初期の出血
月経様出血(げっけいようしゅっけつ)
予定月経のころにおこる少量の出血で、着床期内膜(ちゃくしょうきないまく)の血管破綻(はたん)が原因とされています。数日間で自然に止血しますが、ほかの異常出血との鑑別がむずかしいので、必ず診察を受けてください。
流産(りゅうざん)
多くの場合、下腹痛をともないます。流産には、胎児(たいじ)側に原因がある場合も少なくありません。その場合には、治療によって流産をくい止められないこともあります。また、出血がほとんどみられない流産があることも、知っておかなければなりません。
子宮外妊娠(しきゅうがいにんしん)
卵管破裂(らんかんはれつ)、または流産をおこす前には、少量の出血と軽い下腹痛がみられるのが一般的ですが、何の症状もないことも少なくありません。卵管破裂により腹腔(ふくくう)内に出血がおこると、急激な腹痛とショック症状を示すことがあり、その場合には、緊急手術が必要となります。
胞状奇胎(ほうじょうきたい)
絨毛(じゅうもう)組織が異常増殖したもので、少量の出血がだらだらと続くのが特徴です。また正常妊娠に比べ、つわりが強く現われることが多いようです。現在は、尿中ホルモンの測定や超音波検査により、早期に診断されるようになってきました。
その他
頸管(けいかん)ポリープや出血性腟部(ちつぶ)びらんなども、出血の原因となることがあります。しかし、自己判断はせず、必ず病院を受診して、出血の原因をつきとめておくことが肝要です。
●妊娠中期・後期の出血
早産(そうざん)(切迫早産(せっぱくそうざん))
22週以降周期的な子宮収縮(下腹痛)とともに出血がみられます。子宮口の開き具合、収縮の程度により入院が必要となります。
常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)
分娩(ぶんべん)が開始する以前に胎盤が剥離し、外出血がみられるものです。妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)(むくみ、高血圧、たんぱく尿)を合併している場合が多く、剥離が進むと子宮筋層内にも血液がしみこみ、持続的な下腹痛となるのが特徴です。痛みはしだいに強くなり、ショック状態となることもあります。母子ともに危険な疾患の1つです。
前置胎盤(ぜんちたいばん)
胎盤が子宮口をおおっているために、子宮口が開いてくると出血します。多くの場合、下腹痛はともないません。現在は、超音波検査により、胎盤の位置を正確にみることが可能となりました。
おしるし(産徴(さんちょう))
分娩の前兆として、少量の出血をみることがあります。周期的な子宮収縮をともなうのがふつうです。
◎腹痛
妊娠中の腹痛が、必ずしも妊娠と関連があるとはかぎりませんが、とりあえず、かかりつけの産婦人科医に相談してください。この場合、どのような痛みが、いつから、どのような場所でおこるのかをよく観察し、メモしておくことも重要です。
●妊娠に関連した疾患
妊娠初期
出血をともなうものが多く、流産や子宮外妊娠などがあります。
妊娠中期・後期
妊娠初期同様、出血をともなう疾患が多くみられます。たとえば、常位胎盤早期剥離や早産などですが、子宮破裂の場合には、外出血がみられないこともあります。
●妊娠とは関連がない疾患
子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)
子宮筋腫の大きさ、部位、性状などにより、妊娠中に強い下腹痛がおこることがあります。一般的に、筋腫に対する手術は、妊娠中には行なわないのが原則ですが、症状によっては核出術(かくしゅつじゅつ)が行なわれることもあります。
卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)
妊娠による子宮の増大にともなって、卵巣嚢腫がねじれ(茎捻転(けいねんてん))、強い下腹痛がおこることがあります。その場合には、手術が必要となります。
その他
腹痛をおこすほかの疾患は、すべて妊娠中におこっても不思議ではありません。そのなかでも比較的頻度が高く、注意が必要なものは、虫垂炎、尿路結石、胃腸炎などがあげられます。しかし、まずは産婦人科を受診し、妊娠との関連を確かめてください。
◎めまい・動悸(どうき)
めまいや動悸は、妊娠中によくみられる症状の1つです。妊娠中は、からだの循環動態(血流の活動状態)が変化するため、このような症状がでやすいのですが、原因が鉄欠乏性貧血であることも少なくありません。貧血(血液中の血色素が10mℓあたり10mg以下)になると、胎児の発育がさまたげられたり、分娩時の出血が増加するといわれています。
◎発熱
妊娠中は、妊娠していないときに比べ、0.1~0.3℃体温が高くなっていることを、まず知っておく必要があります。しかし、38℃以上の発熱が2日以上続く場合には、原因を明らかにするため、主治医に相談してください。膀胱炎(ぼうこうえん)やかぜなどでは、通常、抗生剤や消炎剤などが処方されますが、妊娠しているからといって、処方どおりに服用しないと、かえって、腎盂炎(じんうえん)や肺炎などへと、症状を悪化させてしまうこともあります。発熱とともに、発疹(ほっしん)がみられた場合には、必ずその旨を主治医に告げましょう。風疹(ふうしん)などによっておこる症状の場合もあります。また、薬局で売っている解熱薬のなかには、胎児に影響をおよぼすものもありますので、服用する前に主治医に相談してください。
◎便秘
妊娠による子宮の増大と、ホルモン環境の変化のために、腸の動きが悪くなり、便秘気味になってきます。この場合も、すぐに薬に頼ることなく、食生活の改善と、軽い運動から始めるのがよいでしょう。繊維質の多い食事や、牛乳、ウーロン茶などは、便通の改善に効果があるとされています。また、健康食品としてのセンナやアロエは、妊娠に対する影響の少ないものとされています。
◎むくみ
◎むくみ
むくみは、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の重要な症状の1つです。妊娠中の体重増加は、平均10キロとされており、とくに、妊娠5か月以降、1か月に3キロ以上の体重増加がある場合には、むくみが出てきていると考えてさしつかえありません。むくみの程度は、足のすねの前面を指で押してみて判定しますが、日常生活での目安としては、朝起きたときの手のこわばり、指輪がきつくなった、靴がきつく感じる、などがあげられます。また、1回の排尿量と排尿回数が減少し、口の渇きなどもおこってきます。このような症状が現われた場合には、主治医に相談するとともに、減塩を心がけ、心身の安静につとめてください(「妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)」)参照。